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三人目

なんというか、ファンタジック成分ありですみません

早朝から珍しく太陽が顔を出し、幾分か寒さが和らいだある日。文の屋敷では、騒動が起こっていた。


「姫様!お逃げにならないで下さいましっ!」


「いやいやいやいやそれは無理だろう!そしてこれは逃げじゃない。後ろ向きに全力疾走しているだけなんだ!」


屋敷では、貴人にはあるまじき凄まじい喧騒で鬼ごっこが開催されている。鬼は三人のこれまたおか…平安美人。


逃げるのは言わずもがな、文だ。


何故こんな状態になっているかというと、それは数日前にさかのぼる。




「寒い。こんな時にあったかホームに帰りたい…床暖…むしろこたつぷりーずorz」


外にはこんもりと雪がつもり、第一寒過ぎて外出する気さえ起きない状態。家にある本は暗記するほど読み尽くし、また絵を描こうにも、高級な紙を無駄遣いできるほど裕福ではない。

むしろ、実家からの援助は何かと理由をつけられて年々減っている。

今はどうにか文や、侍女達の内職でもっているがそれでも家計は火の車。


加えて時代は平安。この時代の貴人の唯一そして最大の娯楽は恋だ。いや、何も無いからこそ身を滅ぼすほどの激しい恋愛が出来たのかもしれない。


しかし恋愛するには相手が必要だ。だが文の趣味はNOTおかめがスローガン。相手がいるだろうか?いや、いない(反語)


というわけで、文は暇人だ。それはもう、いっそ哀れなほどに。


昼間から惰眠を貪る彼女だったが、突然の衝撃に叩き起こされた。


「姫さま!もう!こんな昼からお昼寝なんて…。お屋敷から文が届いていますよ!」


「んー。夕餉にはまだ時間…」


「姫様!違います!文ですふ、み!起きてください!」


「んーー」


一向に起きようとしない文に、必死に彼女を起こそうとする侍女。

だが文の寝起きの悪さは筋金入りだ。前世はこれほど酷くはなかったのだが、暇を持て余すようになって更に悪化したらしい。


全く起きる気配のない文に、諦めかけたその時。文のかけていた布団が一気に剥がされた。


「くwpぁせdrftygふじmk!??」


「寝穢ない。さっさと起きてください。」


「青葉!」


青葉と呼ばれた女性は、少しつり気味の目と、細くすっとした鼻持つ細身の風貌をしている。それだけならば冷たい印象のある顔だが、少し厚みのある小さな口が幾分か軽減させている。



「姫様はこれ位しないと起きないよ。いつもそうでしょう?清水。」


「それはそうなのだけれど…」


青葉の疲れたようなため息に、清水と呼ばれた女性は眉尻を下げた。


彼女はおっとりとした垂れ目に、小さな鼻。丸顔なのもあいまって、なんとも可愛らしい印象がある。


「いくら姫様が寝起きが最悪で面倒くさい性格をしていて男の趣味が最低最悪な駄目人間でも、一応私たちが仕える主なのよ?最低限の礼儀位は整えなくちゃ。」


「いや、清水。清水の方が酷いことしてるから。」


くすくすと笑い、軽く掛布を蹴り飛ばす清水はドSだ。そしてなかなかに腹黒い。


急激に冷やされて目が覚めた文は、暖かな布団を奪った青葉と地味に嫌がらせをしてくる清水を睨んだ。


「で?なんで実家からの手紙如きで起きなくちゃならないわけ?どうせ継母様のいつもの小言集でしょう?」


文を嫌う継母は、早く結婚しろだのいい人はいないのか、やら嫌がらせの手紙を送りつけてくるのだ。それも頻繁に。

そんな生活をここ5年ほど送っているせいか、文はすっかり実家からの手紙嫌いになっていた。

仲のいい義妹からの手紙も時々来ることもあるが。


「それはそうなのですが、今回は特別です。明後日に屋敷で宴を開くそうです。それに出席しなさいとのことでして…」


「明後日!!?間に合うわけがないじゃないの!」


「おそらくそれが狙いなんでしょ。あのお方は。」


吐き捨てるように言った青葉は、ぼさぼさになっている文の髪を整え始める。


そもそも宴に参加する為の着物が無い。ここにあるのは使い古しのものばかりだ。


あの継母様が何かと理由をつけては、人のものかっさらって返さないからだ。そのせいで、母や祖母からのものはほとんどこの手に残っていない。


だが、文とて前世の記憶があるわけではない。箱庭育ちのわがままお城島の嫌がらせなど、嫌という程知っている。狡賢さでいえば束でかかってこられても勝てる自信がある。


まず、寂れた屋敷に追いやられた時に狂喜乱舞した。


これで堂々と内職で稼げる、と。


まずは代筆業だ。手が綺麗だとそれなりに名が売れている自分の名を使い、なかなかの収入がある。

しかし、一番の収入源は式神の販売だ。式神に関しては、若菜の実家に協力を仰いで買い取って貰っている。


そして稼いで買った高価なものは、青葉の叔母や、若菜の実家、橘の家など様々な場所に預かって貰っている。


その中には、最上級の布もある。一目惚れして、無理して買った扇も、何年もかかってやっと作れた帯もある。


文はゆっくりと目を開けた。


「清水。」


「はい。」


「布を用意して。しまってある、とっておきのやつ。あと、糸と針。」


「畏まりました。」


清水が頭を下げて出て行くのを見送ると、次は青葉に向き直る。


「また悪いんだけど、青葉の叔母様に、預けてある紙と筆、あと布とか取りに行くって伝えてくれる?」


「はい。」


青葉が出ていくと、文もゆっくりと立ち上がった。そして、にやりと唇をつりあげる。


「誰にケンカ売ったか、思い知らせてやりますよ、御継母様?」


そういって、最後の侍女、若菜の所に向かう。


若菜とは、いわゆる乳母姉妹であり、唯一無二の親友…いや、悪友だ。加えて彼女には、他のものには真似できない特技があるのだ。


「若菜、入るよ」


いつも若菜がいるのは、屋敷で一番薄暗いなんとも陰気な部屋だ。

御帳をかき分けて入ると、若菜は案の定部屋の中にいた。


波打った髪に、病人の方が顔色がいいんじゃないかと思うほどの、白すぎる肌。ほっそりとした身体に、やる気の見られない瞳。

顔立ちは悪くはないのだが、如何せん負のオーラと言うべきだろうか?その小柄な身体から滲み出る空気に耐えきれないのか、遠巻きにされがちだ。

本人は全くもって気にしていないが。


「文様。どうかした?」


どうやらなにか作業をしていたらしく、彼女の周りには人型の紙が散乱している。


文が知っている時代とは違う、と思った点の一つがこれだ。ここでは、当たり前のように式神が利用されている。

もちろん使える者は少数だが、式神作りを生業としている一族もいる。


文は何故かその才が開花し、幼馴染の若菜からその手ほどきを受けたのだ。

なかなかに強い力を持つらしく、幼い頃に目付役として若菜が送られてきたのだ。

今となってはすっかり家族同然の付き合いだが。


そんなわけで、ここでは日常的に式神が使われているのだ。


「ちょっと手紙を送るから、鳩かなにか鳥の式神お願い。」


「ん。」


若菜は、大量にある文箱の中から鳥形の紙を取り出すと何やら筆で書き込んだ。


「何かあったの?」


それを手渡しながら、若菜は小さく首を傾げた。


若菜は感が鋭い。不穏な空気を感じ取ったのだろう。文はいつの間にか握りしめていた手紙を、黙って若菜に手渡した。


くしゃくしゃになったそれを読み進めるごとに、若菜の空気の重圧が増していく。どうやら機嫌が急降下しているらしい。


「忙しくなるわよ。これから。人型、ありったけ用意して。」


「ん。わかった。」


彼女たちは、お互いに目を合わせてにやりと笑った。


「「目にものみせてあげましょう」」









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