俺は冒険者になって、大事な人を守る
お助け魔族のラーナくんのおかげでフロッグスイムをマスターしたフィデリス。
そして、今回のエピソードは、それから四年後のお話になります。
◯登場キャラクター
フィデリス 人族 16歳
冒険者になるため、苦手な水泳を克服するべく特訓をする
アマリリス 人族 16歳
フィデリスの幼馴染の少女
溺れている貴族の子 人族 12歳
助けを呼ぶ貴族の子 人族 8歳
ルミノース歴889年。
俺がフロッグスイムを完璧にできるようになってから、四年の月日が経った。
四年の間、もちろん俺は水泳だけでなく、日々の鍛練もかかさずにやってきた。
早寝早起き、ごはんもしっかり食べる。
そしてよく遊ぶ。
俺とアマちゃんも今年で16歳になる。もう立派な大人だ。
そして、数日後に冒険者になるための試験があるのだ。
俺が小さな頃からずっと夢見ていた冒険者。
「フィードくん、いよいよ試験だね〜。よく頑張ったよね、今まで」
俺もだけど、アマちゃんも成長した。四年前はまだまだ子供っぽかったけど、女性らしいというか……綺麗になったな。
「うん、アマちゃんが応援してくれたおかげだよ。俺は冒険者になって、たくさんみんなの役に立てるように頑張ろうと思う。そして……大事な人を守るよ」
アマちゃんは俺の方を見る。
「フィードくんの大事な人って……誰かな?」
たぶん何度となくアマちゃんから聞かれて、その度にはぐらかしてしまっていたと思う。
それは照れ隠しもあったけども、一番はまだ自分に自信がなかったからなんだ。
でも、今なら言える。
「アマちゃんは俺にとって、何よりも大事な人だよ。ずっと一緒にいたいと思ってる。俺が冒険者の試験に合格したら……」
アマちゃんは黙って俺の言葉の続きを待つ。
「俺が冒険者になったら、俺と結婚してほしい!」
だいぶ勇気がいったけど、ついに言ってしまった。
アマちゃんもきっと俺のことを好いてくれている気はした。でも、直接の言葉で聞いたことはなかったし、いつも一緒にいるのが当たり前という感じだったから、こうやって気持ちを伝えるのは初めてだった。
アマちゃんは、ちょっぴり涙ぐんでいる気がした。
「ありがとう、フィードくん。冒険者の試験頑張ってね!」
アマちゃんから返ってきた言葉はそれだけだった。照れてるのかな?
◇ ◇ ◇
冒険者の試験当日。
試験はお昼からだったが、俺は試験が始まるまで、身体をほぐそうと街の外れの小高い丘のほうにアマちゃんと行っていた。
「いよいよ試験だね、きっとフィードくんなら大丈夫だよ。あっ、でも。応援してあげるけど、私に水飛沫をかけないでよ〜!」
アマちゃんの水嫌いは変わってないな。てか、そんな近くで見学しなかったら水飛沫はかからないんだけど。
俺達はそろそろ街中の試験場に向かうことにした。
その時。
「助けて〜!!」
小さな子供達の声が聞こえてきた。この近くには確か川があるはず。
「どうしたんだろう……?」
声のするほうへ二人で行ってみることにした。
「助けて〜!! 友達が川に落ちて溺れてるんだ!!」
身なりの良い十歳くらいの子供、おそらく貴族の子が、必死で助けを求めていた。
確かに、川の方を見ると、一人の子供がバタバタしながらもがいている。
見たところ、周りには大人はいないようだ。
「俺が助けるから、君は街の方に行って大人を呼んできてくれ!」
「わっ、わかりました!」
急いで、貴族の子は街の方へ向かう。
「フィードくん、川の流れは急だから気をつけてね!」
「大丈夫、アマちゃんは離れていて」
俺は川に飛び込み、溺れている子供の方へ向かう。
思ったより川の水が冷たい。そしてかなり流れが急だった。いつも泳いでいる装置の中とは大違いだ。
「待ってろ! もう少しで近くに行く!!」
流れはかなり急だったけど、少しずつ、少しずつ、近づいていく。
「フィードくん、頑張って!!」
アマちゃんが応援してくれている。何故か身体から力が湧いてくる。それに川の水で冷えているにも関わらず温まってきた。なんだか不思議な感覚だ。
俺はついに溺れている子の近くに辿り着いた。
「俺に掴まれ!」
俺はフロッグスイムの応用で足を動かし、水に浮くようにしている。貴族の子はなんとか意識があるという状態だったが、まだ俺に掴まる力は残っていたようだ。
そして、子供を掴まらせた後は、流れに逆らい過ぎず、そして、なるべく岸に行くように身体を任せた。手足を上手く動かしながら、泳いでいく。
「フィードくん、もうちょっとだよ〜!!」
アマちゃんの声が、凄く力強かった。川の冷たい水にも負けない力をくれた。
「もうちょい!!」
俺は精一杯の力を振り絞って川岸まで辿り着いた。
「はぁっ! はぁっ! 子供は大丈夫か……?」
ぐったりはしているけど、息はしているし、水も飲んでいないようだった。
「フィードくん、カッコよかったよ! 途中だいぶハラハラしたけど……」
すると、街の方からたくさんの声が聞こえた。
「おーい!! 大丈夫か!!」
先ほど街の方へ向かわせた子供が大人達を呼んでくれたようだ。身なりを見ると皆貴族のようだった。
俺が助けた子供の体温などを気にして近くにいると、大人の何人かがこちらに来た。
「どけっ! その子供が誰の子かわかっているのか!!」
半ば俺を押し退けるようにして、数人の大人が溺れていた子を囲む。そして、毛布で子供を包み、数人で抱きかかえ街の方へと連れていった。
誰の子か……そんなの知るわけないよな。
初めに助けを呼んでいた子も、一緒に来ていた連中も皆、街の方へと行った。
「酷くない? あの態度! フィードくんは命の恩人だって言うのに……」
「いや、いいさ。貴族の子だから助けたわけでもないし、まぁ助かったんならいいんじゃない?」
アマちゃんは悔しそうにしていたが、俺がなんともないようにしていたら、そっと俺を両手で包みこんでくれた。
「ちょっと! 俺びしょびしょだから濡れちゃうぞ」
「ううん、大丈夫。フィードくんはめちゃくちゃカッコイイよ。貴族のヤツらがあんな態度でも、私はちゃんと見てるから」
川の水で冷えた身体に、アマちゃんの体温が心地よい。
そして、ふと俺は気づいた。
「あっ! 冒険者の試験の時間が!!」
そうなのだ。
結局試験の開始時間に間に合わず、俺は不合格になってしまった……
俺も、アマちゃんも、川で子供を助けている時に、遠くから見ている視線があったことに気づいていなかったんだ。
冒険者の試験当日。
川で溺れている貴族の子を助けたためにフィデリスは試験の時間に間に合わず不合格となってしまった。
フィデリスの冒険者になる夢はもう一年先になってしまうのか。




