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第十一話:おとぎ話と夢物語(その14)

     *


「“「そうそう」と、内心の動揺をひた隠しに隠しながら蒼海君。「“ほろびの呪文”を唱えなければならないような時には、すぐに私が飛んで来られるようにしておいたのですよ」”」


 そう言ってひたいの汗をぬぐうリーダーの仕草に、ナティーボスたちのくすくす笑いはさらに大きくなる。


「“それから彼女は、慈愛と慈しみに満ちた感じの表情を必死で作ると――”」


     *


「それで?」と、キム少女に訊ねた。「――なにか困ったことでも?」


 すると少女は、緊張の糸が途切れたのだろうか、


「それが……」


 そうひと言だけ言うと、それ以上はなにも言えず、ただただ彼女の元へと歩み寄り、ギュッとその右足にすがりつくのであった。


     *


「“「――よく頑張りましたね」と、まるで『なんでもかんでも徹頭徹尾一点の曇りも無くマルッとスッキリ、オールクリアーお見通しですよ』といった声と態度と表情で少女に対する蒼海君であったが、そこはもちろん、実際のところ、彼女にはいったい全体なんのことやらサッパリと分からない。”」


     *


 仕方がないので彼女は、


 とりあえずボロが出る前にいったん口をつぐむと、


 先ずはいまにも泣き出しそうな足もとの少女を見、


 次に自分達を取り囲んでいる帝国の衛兵たちを見、


 ついでにその横の腹の出たタヌキ親父=皇帝を見、


 そうして最後に、


 少女の後ろにいる、


 血にまみれ、


 息も絶え絶えで、


 呆れ顔をしている、


 瀕死の清瀧を見ると、


「ひょっとして――」と、訊いた。「これは“絶体絶命、危機一髪”というヤツですか?」


     *


「“すると蒼海君。清瀧が肯くよりも早く「では石を私に――」と詠うように言うと、少女の手から石を奪う。そうしてそれから、皇帝と衛兵たちのほうへ向きを変え――”」


     *


「失礼致します。陛下」と、彼に小さな笑みを与えた。「今日は、この子たちの救助を優先させて頂きます」


     *


「“そこで彼女は、碧い石を皇帝のほうへ向け――”」


 そうリーダーが言った直後、


「“「時よ止まれ! お前はうつくしい!!」”」(注1)


 と、下は5才5ヶ月から上は13才3ヶ月のナマイキ・ハナタレ・不良少年たちはいっせいに叫んだ。


     *


 すると不意に、四秒程度――と、止まった時を数えるのも妙な話だが、蒼海君以外の時が止まった。


 そうしておいて彼女は、自分に課せられた三つの課題――、


1.仏頂面の衛兵たち


2.皇帝の飛び出した鼻毛


3.退路のない清瀧とキム少女


 ――を順々に片付けていった。


1.の武器を野に咲く花々と入れ替え、


2.をプチッと抜き、


3.をしようとしたところで時が動き出したので、


「それでは陛下――」


 そう彼女は深々とお辞儀をすると、空間にまっ白な穴を開け、


「――また縁があったらお会いしましょう」


 と、少女や清とともに穴の中へと消えて行ったのである。


     *


 ブー、ブー、ブー、ブー、


 ブー、ブー、ブー、ブー、


「――出ないな」


「ナゴ。(訳:いいからもう少しかけてみろよ)」


 ブー、ブー、ブー、ブー、


 ブー、ブー、ブー、ブー、


「勤務時間外だし。やっぱまた別の日に――」


「フーゴ。(訳:だからもう少しかけてみろって)」


「せめて留守電にでもなってくれれば――」


 ブー、ブー、ブー、ブー、


 ブー、ブー、ブー、ブー、


     *


「リンゴ?」


 と、受け取ったちいさな果実を見詰めながら坪井東子 (28)はつぶやいた。――手元のスマートフォンはなぜかいつまでも鳴り続けている。


「ホントは桃の実のほうがあたしらしゅうてエエんやけど (注2)、とうに旬は過ぎとるし、たまたまソレがアイツん家にあったし――」


 そう言うと女性は、腰に着けたウェストポーチから新たなリンゴをひとつ取り出し、


「男が先か女が先かは知らんし、正直どーでもエエ話やけど、どっちかがどっちかから造られて“はい。おしまい”って話やったら、そんなん男も女も神さんも皆いっしょ、どいつもこいつも皆いらん言うとんのといっしょやろ?」


 と、そのあかい果実をひと口かじる。


「お、ちょっとまだ酸っぱいかな?」


「あの、あなたは――」


「あ、ごめんな。いきなりヘンな話して。なんやお姉さんいまにも泣き出しそうな顔しとったさかい、ついつい声かけてしまいとうなっただけで――」


「いえ、それより、あなたどこかで――」


 そう坪井が言い掛けると女性は、左手の人さし指を口もとに当てながら、


「それはネタバレ」


 と言った。


「“両手の鳴る音は知る。片手の鳴る音はいかに?”――先ずはアンタらは、両手の音を鳴らさんとな」


「――“わたしたち”?」


「エエから、先ずは電話に出えな」


 またひと口、あかい果実をかじった。


     *


「ようし!今日はここまで!!」と、リーダーが言って、


「えー!!」そう我々は応える。


「ほらほら時間だ!帰った帰った!」と、皆に立つよう指示が出され、


「次は?次のお話は?」と、5才9ヶ月のハナタレと6才1ヶ月のナマイキ小僧が同時に訊く。「王さまのお話のつづきは?」


「分かった分かった」と、そのふたりのえり首をつかみ立たせながらリーダー。「――次回までにはちゃんと読んでおくよ」


     *


 さて。


 皇帝襲撃以降のキム少女と蒼海君の旅の物語を、このさき何時間にも何ページにもわたってここでご披露申し上げることは、やってやれなくはないものの、そこはそれ、やはり読者の皆さまへのご迷惑を考え、ご遠慮申し上げることにしたいと想う。――それにそもそも、カシヤマ・ヤスヒトなる人物の許可も得らねばならぬだろうし。


 ただ一点。


 この2016年11月初旬に起きた悲しい結末にも関わらず、我らがナティーボス初代リーダー・野崎恵太は、彼女らヒロインの旅の物語を、根気強く、賢明かつ懸命に、そうして最後までくじけず、謳い上げてくれたという事実は、ここに書き残しておいても良いだろう。


 そう。


 前にも書いたとおり、われわれ新中野の不良少年どもは、どいつもこいつも――5才5ヶ月のハナタレから13才3ヶ月のナマイキ小僧に至るまで――ひとり残らず、この初代リーダーを、こころの底から愛していたし、尊敬もしていたのである。



(続く?)



 ……ブー、ブー、ブー、ブー、



 …………ブー、ブー、ブー、ブー、



 ………………ブー、ブー、ブー、ブー、



 ……………………ブー、ブー、ブー、ブー、



 ブー、……カチャ。



「あ、あ、あ、あの…………え?ああ、はい。樫山です。その、樫山泰仁です。


 すみません、勤務時間外に…………え?今日ってお休み?あ!そっか!!今日って土曜――。


 あ、いえ、ほんとすみません。ちょっとここ二・三日こもりっきりだったもんで曜日の感覚が――、


 あ、いえ、あー、その、文代さ――本田編集長からあなたの名刺を頂いていて…………え?あ、なんかすみません。逆に気をつかわせてしまった――はい?


 あー、ええ、いま書いている長いヤツはだいたい目途が付いたんで、それが終わればそちらの…………ああ、読んでいただけたんですね。


 ええ、はい、そこがちょうど折り返し地点で、連載分はもう少し進んでいて…………え?ええ、そりゃもちろん。下巻できっちり終わらせ…………られるかなあ?


 あ、いえいえ終わらせます。終わらせますよ、プロですから。しっかりキッカリまとめられるよう、現在鋭意執筆中で――、


 え?もちろん子ども向けですから。ハッピーエンドを用意していますよ。…………うん。希望はありますよ、どんなときでもね。


 って、いまのキザですかね?キザですよね?すみません。忘れてくださ…………登場人物のモデル?


 あー、まあ、いると言えば全員誰かしら何かしらがモデルになっ…………ああ、そうですね。とくに“あの人”は、その……、なんと言うか…………いやいや、そんな、そんなひといませんよ。登場人物のことは、みな平等に、すべからく愛しております。――ってこれもキザだなあ……なんかすみません。ヘンなことばっか口走っちゃっ――リンゴ?


 ああ、もう時期ですもんね。うちにも知り合いの、農家やってるヤツからなんとかって名前の小さいのが箱で届いちゃってて、そちらの編集部にもおすそ分け――え?あー、いえいえ、こちらからお伺いしますよ。


 え?…………あー、まあ、そういうことでしたら。…………月曜日?ええ、どうせ一日家で仕事してますから、いつでも。――場所って分かりますか?


 あー、でしたら千駄ヶ谷の駅まで迎えに行きますよ。…………いえいえ、けっこう分かりにくい場所なんで案内したほうが早いんです。前の担当で道に迷われた方もいましたし。


 うん。はい。でしたらまた来られる時間が決まったら教えて下さい。――ですね。


 ええ、じゃあ坪井さんも明日はゆっくりお休みになって月曜に――。


 うん?……ええ、いいもの作りましょう。…………はい。それではまた――」



 カチャ。



「ナ?(訳:な?)」


「うん。なんかいい人そうな感じだった」


「ナゴン。(訳:おっぱいもおっきいらしいぜ)」


「は?――まあ、月曜に来るそうだから、愛想よくしろよ?」


「フナーゴ。(訳:それよか腹減った)」


「はいはい。じゃあメシにするか」


「ゴナ。(訳:なあ、ダンナよ)」


「なんだ?今日はよくしゃべるな」


「ゴロナアーゴ。(訳:あんたもそろそろ、“あの人”のことは忘れたほうがいいぜ)」



(続く?)



 ……、



 …………、



 ………………、



 ……………………ピンポーン。



【2019年10月】



【日曜日。9時53分】



『はい?もしもし?』


「あ、えーっと。朝早くからすみません。大樹と申しますが――緑葉さんはご在宅でしょうか?」


『あー、どちらの大樹さまでしょうか?』


「あ、いえ、大樹が名字でして、名前は真仁と言います。大樹真仁。――たぶん、「マコトが来た」と言ってもらえれば伝わるかと――」


『あの――、失礼ですが、お嬢さまとはどういう?』


「あ、むかし一緒に野球をやってたチームメイトで、今日はちょっと――」


『あ!コジヤさん!!お兄さまが来たらすぐに入れてって言ったでしょ?!』


『え?お嬢さま?あ、あの、“お兄さま”ってこちらのお若い?』


『そうよ、ずうっとよくしていただいていたんだからあ――お兄さまー、ごめんなさーい。すぐ行くのでちょおっとまっててくださいねーー』


「あ、ああ、別にそんな急がなくて――」


『コジヤさーーん。お着替え手伝ってーー』


「――いいんだけど」


 ドタバタドタバタ。


 ドタバタドタバタ。


『ねー、コジヤさーん。どっちのリボンがいいと想う?』


『あー、今日のお召し物でしたらそちらの赤の――』


『えー、でもこっちのブルーも捨てがた――あ、昨日麹町の伯母さまに頂いたカチューシャは?あれどう想う?』


『そうですね。せっかくのお誕生日プレゼントですし、きっと今日のお召し物にも似合――』


『あ、でも、だったら鷹子お姉さまに選んでいただいたバレッタのほうがいいかも!そうだわ!そうしましょ!!コジヤさん!!付けるの手伝って!!――って、どこやったかしら?』


 ドタバタドタバタ。


「(……いま“鷹子お姉さま”って言った?)」


 ドタバタドタバタ。


『ね?どう?カワイイかな?カワイイわよね?』


『お嬢さまならいつでも可愛いらしゅうござ――』


『よし!オッケー!!キャー、靴と靴下が合ってないじゃない!!』


 ドタバタドタバタ。


「(……そろそろインターホン消してくれないかなあ?)」


 ドタバタドタバタ。


 ドタバタドタ――ゴッチン。


『いったーー!!』


「(……だから急がなくていいって言ったのに)」


 ドタバタドタバタ。


 ドタバタ――、ドンガラガッシャン。スッテンコロリン。


『いったーーい!!』


「(…………大丈夫かな?)」


 ……ムックリ。


 ドタバタドタバタ。


 ゼーハー、ゼーハー、


 ドタバタドタバタ。


 スーハー、スーハー、


 …………よし。


 カチャ。


「おまたせしました! お兄さま!!」


「はいはい。お誕生日おめでとう。――ロクハ」(注3)



(続く)

(注1)

 原文では「タンク・サブシスト・パルクラ・エス」となっているが、これでは何のことやらサッパリ分からないので、ナティーボスたち向けにリーダーが意訳したものと想われる。


(注2)

 桃の花言葉には「チャーミング」「気立ての良さ」「天下無敵」などがあ…………はあ?


(注3)

 第十話“その3”を確認のこと。

 フフォン・ラ・カスティリオーヌ箸『ラムール・ダムール・レットルダムール~愛を伝える51の方法~』に触発され大変身を遂げたらしいです。はい。

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