第十二話:日曜の朝と昼と夜(その1)
【日曜日。4時21分】
これまでのあらすじ――。
BL漫画家・樫山詢子 (27)は悩んでいた。
というのも、結婚三年目、同棲期間を含めれば六年間をともに暮らした夫が、突然家を出て行ってしまったから――だけではなく、
その夫が、家を出て行ってしまうぐらいにホレた相手が実は男だったから――だけではなく、
その六年連れ添った夫がゲイであることをBLマンガ家として絶賛売り出し中の自分が――ってゴメン。
――この辺のくだりは今までさんざん書いて来たし、この辺のアーダコーダもナンダカンダで解決したんじゃなかったっけ?
「“解決”ってのとはちょっとちがいますけどね――」
――あ、詢子さん。おはよう。
「おはようございます。日曜なのに早いですね」
――昨日っていうか3年前の11月っていうかはナンダカンダのテンヤワンヤで振り回されちゃってさあ、ナントカカントカ戻っては来れたのはいいんだけど、おかげで目が冴えちゃって冴えちゃって。
「――は?」
――あ、いや気にしないで。こっちの話だから。
「はあ」
――っていうか詢子さんも早くない?いままだ朝の4時だよ?
「こっちもなんだか似たような感じなんですよ、遅くまで伊純としゃべってて――」
――あ、けっきょく伊純さん泊まってったんだ?
「もうねー、真琴さんのお姉さんの話したら私より伊純のほうが盛り上がっちゃって――」
――他人の恋バナって楽しいもんね。
「自分に害はないですからね」
――“害”?
「あ、いや、真琴さんがどうこうってんじゃないですよ?――ほら、その…………“あの”お姉さんたちでしょ?」
――あー、ブラコン全開だもんね、みんな。
「三女のかたは知りませんけど、上のお二人は、ホンッとエキセントリックと言うかなんと言うか――」
――“あの”鷹子さんに“あの”富士子さんだもんね。
「しかも仲わるいんでしょ?あのふたり」
――うん。真琴くんはどうにか取りなそうとしてる感じだけど、僕なんかは“鬼神は敬してこれを遠のく”が一番だと想ってる。
「ほら、作者さんが言うんだからよっぽどじゃないですか」
――僕、エキセントリックな美人には逆らわないタイプ。
「あ、そうそう、そこもポイントで――」
――“そこ”?
「真琴さんもたいがい美形ですけど、鷹子さんも富士子さんも、まあそりゃ美人じゃないですか」
――三女の茄子さんも普通に美人だしね。
「ですから、その三人――真琴さん入れたら四人ですか――そのあいだに私が立つこと考えてみてくださいよ」
――あー、それは…………、
「ね?悲惨でしょ?」
――“捕らわれた宇宙人”とか“スーパーモデルのなかの山田花子”みたいになっちゃうね。
「だから、昨日の富士子さんのお話は――“山田花子”?」
――ごめん。ちょっと言い過ぎた。けどさあ、そこはあんまり気にしなくていいんじゃないかなあ?
「いやあ気にしますよ、私だって女ですもん」
――いやいや、詢子さんだって十分カワイイ部類には入ると想いますよ?
「でもほら、私バツイチですし、職業マンガ家 (BL)ですし、趣味も仕事も腐ってますし、兄はあんなですし、父はどっか行ったままですし、化粧は下手くそですし、体重も (*検閲が入りました)のままダイエットはいっつも失敗してますし、それにそれに――」
――ちょ、ちょっと、詢子さん。ストップ、ストップ。
「――なんですか?」
――その、詢子さんの“相手の期待に応えたい”とか“後悔させたくない”って気持ちも分からないでもないですけど、だからってそんな必要以上に条件を並べ立てなくてもいいですよ。
「そうですか?」
――いつもの詢子さんで十分対応可能な話だと想いますよ?
「そうかなあ?」
――そりゃ努力や頑張りも必要ですけど、そんな気合い入れ過ぎて、いつもの自分を見失ってしまうことのほうが問題ですよ。
「――ですかねえ?」
――そうそう。それよりはあなたが真琴くんのことをどう想っているかのほうが大事ですって。そりゃ確かに、昨日の富士子さんの話は飛躍し過ぎてて色々考えてしまうのも仕方ないとは…………どうしたんです?まっ赤な顔して。
「あ、いえ、なんでも――」
――うん?
「……いえ、あの、その、やっぱり、アレですよね?富士子さんもおっしゃってましたけど、このお話って要はその――」
――あーー。
「あ、いえ、そんな、そーゆー、あの――」
――はいはいはいはい。それで目が冴えてこんな時間に起きて来たってワケですか。
「あ、いや、べ、べつにそれで目が冴えたってワケで…………も、まあ、ちょっとはそれも、その――」
――はいはいはいはい。オッケーオッケー、みなまで言わなくてもいいですよ。分かります分かります。
「あ、いや、あの、その――」
――うんうん。詢子さんもふつうに女の子ですもんね。いっつもいっつも男同士のアレコレばっかり考えてるより、たまにはそーゆーことも考えたほうがぜーんぜん、ぜーんぜん、健康的ですって。
「健康的って――」
――でもねー、あの詢子さんがねーー、ふーん。
「ちょっと、やめて下さいよ」
――いやいやいやいや、ふーーん。なるほどねーー、真琴くんとのね――、へえーー、このエ――、
「ちょっと!!さすがにそれ以上はセクハラですよ?!!」
――はいはいはいはい。もう止めますって。
「まったく――」
――ま、作者的には、登場人物がしあわせになるんだったらなんでもいいんですよ、方法は。
「はあ。――って言うか、ホントのところ、真琴さんは私のことどう想ってるんですか?」
――へ?そんなの当人に訊かなきゃ分かりませんよ。
「え?いや、だって、あなた作者でしょ?」
――いくら作者だからってひとの気持ちなんか分かりませんよ。だから書いてるんですから。
「――は?」
――だってそうでしょ?詢子さんだって自分で自分の気持ちすら分からないからこーやって日曜の朝早くからモヤモヤしちゃってるワケでしょ?
「まあ……、そうですけど――」
――だったら他人の気持ちなんか余計に分かるワケないじゃないですか。
「あー」
――で、僕の場合は、実際にこうやってお話を書いてみて、自分なり他人なりがなにを考えているか確認してるってワケですよ。“シュレディンガーの猫”といっしょ。観測しなければ分からない。
「なんか――、ちゃんと色々考えてるんですね」
――みくびってたでしょ?
「正直」
――ま、この理屈もいま書きながら想いついたんですけどね。
「――はあ」
――で?どうします?
「――なにをですか?」
――分かんないんでしょ?自分のきもち。でも、ハッキリさせたいんでしょ?だったら、なにか行動しないと。
「行動って――」
――告白……ってのもおかしいから、まあ電話するなりメールするなり会いに行くなり。やり方は任せますけど、まずは自分のきもちを確認しないと。
「えー」
――そうしてもらわないと、こっちもお話が進まないし。
「……………………きょうの真琴さんの予定とかって分かります?」
――ちょっと待ってね。製作メモ見るから。
「製作メモ取ってるんですか?!」
――みくびってたんでしょ?
「――正直」
――えーっと、あ、ちょっとヤバいかなあ。
「――はい?」
――朝いちで富士子さんのところに呼ばれてますね。
(続く)




