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「この空間は全部掘り出したの?」
「いやここはもとからこんな感じだったよ。細部は削って球体の形にしてるけど」
「空洞があった場所に研究所を建てた理由は?」
「知らない。興味もない」
二人は研究所の入り口にたどり着く。遥が先に入る。そのあとを夏はついていく。
「すこし照子の世話をしてくるから、先に部屋で待ってて」
「うん。わかった」夏が返事をすると、遥は右のドアを開けて照子の部屋の中に入っていく。
その瞬間、一瞬だがガラスの壁越しに座っている照子の姿が夏の目に入る。照子はじっと夏を見ていた。その視線を受けて、夏の背筋が寒くなる。静かにドアが閉まる。夏は左のドアの前に立つ。ドアが開き夏は一人で遥の部屋の中に移動する。
夏の後ろでドアが閉まる。夏はそこで一度深い深呼吸をする。大丈夫、と心の中で小さく言葉をつぶやく。
それから夏は行動を開始する。まず最初に拳銃を手にするためにリュックサックの中を確認するが、お目当ての銀色の拳銃が見当たらない。何度探してもどこにもない。
……どうして? 夏は思う。遥が私に黙って持ち出したのか? ここに人間は二人しかいない。私でなければ遥が犯人なのは間違いない。(照子の可能性は除外する)




