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 そしてそのあとで、大切な鍵をきっと夏は投げ捨ててしまうのだ。あとからそれを一生懸命になって探し求めることになるとも知らないで。夏はとても困ってしまうだろう。

 遥はそんなことを考える。

 その間、夏はいろんな話を遥にしてくれる。でも、遥はその話をほとんど真剣に聞いていなかった。自分の新しい思考に没頭している。

「ちょっと遥、私の話ちゃんと聞いてる?」春風の中で夏が笑う。

「ごめん、全然聞いてなかった」そう言うと夏は怒る。

「もう。遥はいつもそうだね。全然私の話聞いてくれないんだからさ」それでもやっぱり、最後に夏は笑う。

 素敵な顔。遥は輝くような夏の笑顔を一生、覚えていようと思った。


「私、飲み物買ってくる」夏が言う。

「あ、私も一緒に行くよ」遥が言う。

「いいよ。演奏聞いてくれたお礼」夏がそのまま足早に音楽室を出て行く。夏は行動が早い。そして人の話をあまり聞かない。でもそれは私も同じかな? そう思って遥は笑う。 

 音楽室の中に一人取り残された遥は窓際に移動して、優しい風と暖かい太陽の光の中で思考する。でも夏なら大丈夫。いつかちゃんとその鍵を開けてくれる。私はそれを信じている。瀬戸夏は鳥籠の外に出て、宝物もちゃんと見つけて、そうやってきちんと年月とともに大きくなっていく。想像してみると結構楽しい。

 ……宝箱の鍵くらい私があらかじめ用意しておこうかな? そんなことを遥は考える。夏は喜ぶだろうか? 予測してみてもいいけど、今はやめておこうかな。 

 だって夏ならきっと私の予測を裏切ってくれる。私をびっくりさせてくれる。瀬戸夏は、そうやって大きくなる。大人になるんだね、……夏。

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