表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/442

90

 本当は、夏がその気になればいくらでも自由な選択肢を選ぶことは可能だ。瀬戸という家を捨てることもできるだろう。空を眺めて暮らすのではなく、実際に空を飛ぶことだってできる。鳥かごの外に出ることもできる。かごの鍵は開いている。誰も扉を閉じてはいない。もし鳥かごに鍵をかけている人物がいるとすれば、それは夏自身だ。

 鳥かごの鍵は外側からではなく内側からかけられている。誰かに会いたいけれど、誰も中に入れたくない。誰かに会いに行きたいけれど、外には出たくない。夏は自分で自分を不自由にしている。この矛盾に夏本人は気がついていない。

 空を飛ぶためにはいろんなものを捨てなければならない。荷物を制限して、たくさんのものを我慢しなければならない。そうしなければ飛行機は飛べない。

 たとえば重たいピアノをもったまま空を飛ぶことは、残念ながらできないだろう。それは過剰な荷物になるからだ。仮にピアノをどうしても捨てることができないのなら、ピアノと同じ質量を持つ『なにか』を代わりに犠牲にしなければならない。なにも犠牲にできないのなら、一生空を飛ぶことはできない。

 でも、それはそれで構わない。大抵の人間がそうだからだ。なにも危険をおかしてまで空を飛ぶ必要はない。夏だって瀬戸の鳥かごの中で生きていくほうが幸せだろう。大人になってから昔の自分はなんて子供だったんだろう、なんて幼稚だったんだろうって、とても可愛くて純粋だったころの自分を懐かしんで、微笑むことができるようになるはずだ。

 時間をかけてゆっくりと夢を消化していく。……飲み込んでいく。それができるようになるまで、何年もかけて自分を訓練していくんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ