表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/442

88

 夏が移動して遥の隣にやってくる。夏はそのまま音楽室の机の上に腰を下ろした。遥は元の席に座った。

「どう? 結構いけてるでしょ?」

 机に座って足を振っている夏はお嬢様には見えない。あんなに美しい音を生み出せる人物にも見えない。でも夏はそんなことを気にしない。初めてあったときから、夏はずっと夏だった。

「うん。すごいよ、夏。私、音楽で感動したの初めて」

「本当はね、私、ピアニストになりたいんだ」

「夏ならなれるよ。きっとなれる」

「でも、それは無理なの」夏は悲しそうな顔をして笑う。それから夏は机の上から音楽室の床の上に着地する。

「ならないの?」

「なれない。私の人生は、私のものじゃないから」夏は深いため息をつく。

 夏はすごく寂しそうだ。きっと瀬戸の家に生まれるということは、そういうことなんだろう。遥自身も瀬戸家とはまったく無関係の人間ではないから(と言うか、かなり深い関係にある)夏の立場というものを、それなりに理解することができた。

 早熟の天才科学者、木戸遥は瀬戸家からの莫大な資金提供によって、(そのすべてではないにせよ)自身の研究活動を行っていた。

 夏と初めて出会ったのも、瀬戸家が主催するクリスマスイブのパーティー会場だった。この学園にだって瀬戸家の後押しで入学している。

 瀬戸家との契約には、当たり前のように守秘義務があり、瀬戸家との共同研究におけるあらゆる事柄は、部外者の夏には秘密のことだった。(もっとも契約がなかったとしても、遥は夏にそのことを話そうとは、思わなかったけれど……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ