表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/442

86

「友達がほしかったの」遥の思考が少しだけ飛んだ。

「私がいるでしょ?」夏は即答する。

「夏に出会う前の話」遥は右手で水面に優しく触れる。

「ずっと一人だった。孤独に耐えられなかった。……一人が、すごく怖かった」遥は言う。

 夏は出会ったころの遥を思い出す。確かにあのころの遥には弱さのようなものを感じた。今のように強さを感じなかった。とても壊れやすくて、儚いもののような印象があった。孤独が天才を弱くした。友達ができて強くなった。夏のことではない。遥の中にいる友達とは、不本意だけど、照子のことだろう。

「人工知能で友達を作ろうとしたの?」

「可能性があった。この分野以外では無理だと予測していた」

 実際に人工知能を友達にしたり人工知能と結婚したりする人もいるらしい。夏も友達ではないが、人工知能の搭載された高性能な、本物と見分けがつかない機械仕掛けの子犬を家で飼っている。その子犬は、食事などはしない。電気で動いている。だから排泄もしないし、とても奇麗で衛生的。(……そして、なによりも死ぬことがない)いつまでも子供のままで可愛くて、とても人気のある商品だった。

 夏の子供のころからずっと同じ姿のまま。成長しない。変化しない。夏は今でも、その子犬のことをとてもかわいがっている。その気持ちは嘘ではない。でも人工知能の子犬と友達になろうとは、(子供のころとは違って)現在の成長した夏は思わない。なぜだろう? 本物の子犬と人工知能の子犬ではいったいなにが違うんだろう?

(それとも、もしかしたら違いがあるのは子犬のほうにではなくて、変化したその外見の通りに、世界を認識する主体である夏のほうに、その(認識の)変化の原因があるのかもしれない)

「シロクジラはすごい人工知能なんだよね?」

「生きている人工知能かな? 別にすごくはない。旧型のものでも、パワー勝負になったらこちらが負けるかもしれない」

「複雑な人工知能ってシロクジラのことじゃないの?」

「コンセプトは同じだけど、……少し違うかな? 生まれたばかりでまだ子供だから。きちんと経験を積んで成熟したら、もしかしたらそうなるかもしれない」うーん。なんだろう? またわからなくなってきた。

「……つまり浮気したってこと?」夏は自分の頭にぱっと思いついた概念を口にする。

「浮気じゃない」遥はすぐに否定した。


「……私、夏のこと大好きだよ」

 しばらくしてから遥が言った。

「じゃあ、なんでいなくなったりしたの?」夏は言う。

 だけど、遥はただ笑っているだけで、夏の質問にはなにも答えてはくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ