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「ここでね、照子と違う、もう一つの研究をしてるの」遠くのほうに明かりが見えてくる。どうやら地底湖の外周のようだ。その明かりは、遠くから見ると松明の炎のように見える。
「もう一つ?」
「うん。照子が生まれる前は、そっちが私の一番興味を引く対象だったんだ」
「それってなんなの?」宇宙船の設計かな? それとも遊園地を作ることだろうか?
「人工知能の設計」
「人工知能? もうできてるじゃん」
「もっと複雑なもの」
人工知能に複雑なものとそうでないものがあるのか。よくわからないが遥がそういうのならそうなのだろう。
人工知能と呼ばれる技術は、すでに一定の成果を社会で出している。市販もされているし、世界トップの企業も確か人工知能の開発、販売をしている会社だったはず。研究の世界のことは夏にはよくわからないが、お金になる分野だし人気もあるんだろう。夏はそんなことを考える。
白いボートはゆっくりと灯りにそって移動していく。泳いでいるときも、列車のときにも感じたけど、やっぱりどこかおもちゃっぽい感じがする。アトラクションのような感じ。テーマパークの中にいるみたいな感じ。全体的に楽しいけど、どこか偽物っぽいのだ。
人工の空間。人工の体験。人工の世界。どこもかしこも、人の手が入っている。誰かの意識が混ざり込んでいる。偽物っぽいとは、つまり人が作ったものということなのか? では、本物とは自然のことをさすのか? じゃあ、人はなんのために思考するのか? 偽物を作るために考える? 偽物を作るために想像し空想する? 難しい。わからない。でも、よく考えてみれば、確かに人工とは自然の模倣だといえるのかもしれない。




