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 夏は一目で遥に惹かれた。憧れたと言ってもいい。心がときめいて、一瞬で恋に落ちた。それぐらい遥は美しかった。空に輝く星たちよりも、地上にいる遥のほうが強く光り輝いて見えた。

 その美しい外見もそうだけど、内側から湧き上がる目には見えない魅力のようなもの、神秘的でどこか触れてはならないような人、あるいは物が持つ独特の雰囲気をその幼さで遥はすでにその身に宿していた。

 とても禁忌的で危険な存在。

 でも、だからこそ触れてみたい。手に入れたい。……夏の心はぞくぞくした。

 夏は深呼吸をして自分の気持ちを落ち着かせると、すぐに行動を開始した。

 後ろからそっと忍び寄って突然声をかけて驚かせたかったのだけど、自分に近づいてきた人の気配を感じて遥がこちらを振り返って、夏を見た。

 夏は多少動揺したが、すぐに何事もなかったかのように姿勢を正して遥を見る。

「ごきげんよう」

 夏は遥に挨拶をする。

「初めまして。私は瀬戸夏といいます」にっこりと笑って、私はあなたの敵ではなく味方ですよ、ということを証明してから、夏はそっとその右手を遥に向けて差し出した。

「なつ?」

「そう夏。よろしく」

 ちらっと夏の小さな手を見たあとで、遠慮がちに遥は差し出された夏の右手を自分の右手で握る。二人は虫も殺せないような優しい力で握手をする。

「……私に、なにかごようですか?」

 今にも消えてしまうそうなほど、小さな声で遥が言う。

 遥はちらりと夏の顔を見るが、すぐに視線を自分の足元に下げてしまう。その頬はほんのりと薄く桃色に染まっている。どうやら遥は知らない人に突然声をかけられて、とても恥ずかしがっているようだ。なんて可愛いらしい反応。ぜひ友達になりたいと夏は思う。

「あなたはなんて名前なの? 教えてもらえる?」

 夏はそう言って、まっすぐ正面から遥の顔を見つめた。

 遥も顔を上げて夏の顔を正面から見る。

 遥は不思議そうな眼差しを夏に向けていた。その目は、どうしてそんなことを私に聞くの? あなたはもう私の名前を知ってるでしょ? と逆に夏に問い返しているような眼差しだった。もしかしたら遥はあとになって夏がこうしてこの夢を見ることを、このときから理解していたのかもしれない。

 二人は無言のまま、お互いの顔を見つめ合う。

 二人は見つめ合ったまま動かない。 

 雲が動いて月が出た。

 月の光は夏と遥の姿を冷たく照らし出している。それはまるで聖域のようだった。いつの間にか、パーティー会場には人は誰もいない。パーティーはもう終わってしまったみたいだ。会場に残されているのは夏と遥の二人だけだった。

 白い月の光の中で、遥は一度小さく深呼吸をする。それからゆっくりとした口調で夏に自分の名前を告げる。

「木戸遥です」

 はるか。それはとても可愛い名前だ。

「木戸遥さん」

「はい」

 夏はにっこりと笑う。

「木戸遥さん。私と、お友達になってください」

 夏がそう言うと、遥は目を丸くして驚いた。

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