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ここはきっと遥の世界なんだ。遥の大好きな世界。遥はこういう世界で生きている。夏の知らない世界の中で、いつも彼女は暮らしている。夏は膝を両手で抱え込むようにして丸くなる。自分の口や鼻から少しだけ空気が漏れて、それが細かい泡になる。
気持ちいい。周囲の視界は、ほぼゼロだ。夏はそっと目を閉じる。目を開けていても、閉じていても世界はなにも変わらない。真っ暗な世界。まるで宇宙空間にでも放り出されたような不思議な開放感がある。
もちろん、本物の宇宙ならこんなに優しくはないだろう。夏はすぐに死んでしまう。でもここは違う。この宇宙では夏は死なない。ここは地球なんだ。生命の星。私たちのふるさと。だからこんなにも暖かくて、とてもやさしい。なんだか遥のようだ。夏は微笑んでから目を開ける。すると世界はやっぱり真っ暗なままだった。
遥はどこだろう? 夏はぐるぐるとその場で水の中を回りながら遥を探すが彼女はどこにも見当たらない。遥はどこに行ってしまたのだろう?
そんなことをしていると、だんだんと息が苦しくなってくる。呼吸がしたい。肺が酸素を求めている。
しょうがないので、夏はいったん宇宙から出ることにする。




