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夏は座席に戻ると、そこに座ってゆっくりと目を閉じる。ちょっとだけ眠ろう。大丈夫。ここまでくればもう遥は私から逃げたりしない。そう安心すると疲れていた夏はすぐに眠りの中に落ちていく。その眠りの中で、夏は遥に初めて出会ったときの思い出を、その願い通りに夢に見た。
その日は、今日と同じクリスマスイブの日で、場所は夏の実家である瀬戸家の豪奢な三階建ての中世のお城みたいなお屋敷だった。そこでひらかれた華やかなパーティー会場で、お気に入りのオレンジ色のドレスを着て、いつも通りお嬢様の演技をしながら、舞台の上で優雅にダンスを踊っている夏。
そこに明るく談笑しながら楽しそうにダンスを踊っている大人たちに混じって、ちっとも笑っていない子供が一人いた。美しい薄紫色のドレスを着た夏と同じ女の子。すごく珍しい。夏も子供だったけど学園以外の場所で同い年くらいの子供と出会うことはほとんどなかった。すごく気分が高揚した。だからすぐにその女の子に声をかけにいった。その女の子が遥だった。とても懐かしい。それはもう七年も前の思い出だ。
そこはほかに人が誰もいない、小さな白いゴンドラのような、あるいは大きなゆりかごみたいなバルコニーで、遥は一人ぼっちだった。
考えごとをしているのか遥はずっと下を向いている。そんな遥がなにかの拍子でふっと顔を上げた。もしかしたら夜空に輝く星の光をその大きな瞳の中に吸収しようとしたのかもしれない。もしかしたら薄汚い風景を見てしまって、その目の中に溜まった汚れを、その光で洗い流そうとしたのかもしれない。
その上を向いた遥の顔を見て、夏は自分の心臓の鼓動が高鳴ることを感じた。
絵本のような物語に登場するお姫様みたいに奇麗な子。それが遥の第一印象だった。