表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/442

69

「あんなに寝相が悪いとは知らなかった」遥がおかしそうに笑いながら言った。遥はなぜか昨日よりも機嫌がいいように見える。なぜだろう? その理由が夏にはわからない。疲れている夏は遥に返事をしない。

「元気ないの? 夏」

「うん」

「床で寝るから疲れがとれないんだよ」コーヒーのいい香りが部屋の中に漂っている。その匂いにつられて夏はガラスの小瓶から角砂糖を二つコーヒーの中に溶かして一口飲む。美味しい。すごく気分が落ち着く。

「ねえ、照子はどうしてるの?」夏は言う。

「もう起きてるよ。照子は誰かさんみたいに寝坊はしないの」遥は笑う。

 どうやら遥は夏を起こす前に照子の起床を済ませていたようだ。毎朝の習慣として夏が一定の距離を決まった時間で走るように、そうすることがきっと遥と照子の日常なのだろう。

「普段の照子はなにしてるの?」 

「普段? うーん、まあずっと部屋の中にいるよ。朝起こして、お薬を飲ませて、トイレにいかせて、たまにお仕事をして、それから体を洗ったりして、夜は寝かせる。毎日毎日、その繰り返しかな?」遥はバターをたっぷりと塗ったトーストを一口食べる。

「勝手にどっかいったりしないの? もしくはいきなり喋り出したりとかさ?」夏も無理して目玉焼きを乗せたトーストを食べる。食べないと勝負には勝てないからだ。美味しい。

「しないよ。それは絶対にない。照子はあの部屋以外の場所では生きていけないんだもの。脳波もあるし、意識もあるけど、会話もでいないし、体もほとんど自由には動かせない」

「絶対に?」

「うん。絶対に」

 夏はフォークで刺したウインナーをかじる。かりっという音がする。食感が楽しい。味も美味しい。

(……でも、なぜだろう? それが(今日は)ときどき、なぜか人の指のように見える。大きさによって、小指とか薬指とか、親指のように見える。……それは、どうしてだろう?)

 もぐもぐと口を動かしながら夏は少しだけ、首をひねった。

「……? 味、どこかおかしかった?」と遥が言う。

「ううん。どこもおかしくない。すごく美味しいよ」と夏は遥に笑顔で答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ