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きっと照子の研究に関わった大勢の頭のいい人たちは照子のことをかわいそうな子供、くらいにしか思っていない。実験用のモルモットのようなもの。もしくは世界初の人工進化実験の貴重な成功サンプルくらいにしか思っていない。夏も、この木戸研究所を実際に訪れるまでは、ずっとそう思っていた。
照子は遥の人形なんだと思ってた。お気に入りのお人形さん。まるでペットでも飼うように愛着をもって可愛がっているんだって思ってた。子供らしく自分の生み出した命に特別な感情を持っているだけなんだって思ってた。遥が照子に向けてる愛情はそういう感情なんだと思ってた。でも全然違った。実際に本物の照子に会って夏は気がついた。それは全部私の勘違いだった。今になってそれがわかった。体の芯から本能的に理解できた。
たぶん、あれは化け物だ。人ではない怪物。人を喰う化け物。とてつもなく恐ろしいものだ。異形な形をした、本来この世界に存在していはいけないものなんだ。天才、木戸遥だからあの化け物と何年も一緒に生活ができるんだ。照子は確かに美しい。顔も体も手も足も、なにもかもが完璧な造形をしている。照子の資料はそのすべての映像記憶に規制がかかっていたので、夏は実際の照子がどういう子供なのか事前に知っているわけではなかった。なので実物を見たときにとっさに照子のことを美しいと思ったことは確かだ。
……でもそれは照子が人間ではないからだ。照子が人を喰う怪物だからだ。
照子は天使のように美しい。でも同時に悪魔のように恐ろしい。とても怖い。恐怖の理由がわからない。存在自体が恐ろしい。あってはいけないもの。この世界に生まれてはいけないなにか……。
それを遥は生み出した。そして、それに遥は飲まれたんだ。




