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 どん、どん、とドアを叩く音が聞こえてきた。

 瞬間、ぶるっと夏の全身が震えた。

 夏は遥を探すために木戸研究所とその前身である雨森研究所の手に入る限りのありとあらゆる記録を読んだ。遥の痕跡を辿り、実際に遥の元までたどり着くこともできた。それが可能になるほどの量の記録を読んだのに、夏は未だに木戸照子と言う存在がいったい何者であるのか、それを理解することができないでいた。

 木戸研究所にはもう随分と前から遥と照子の二人だけしか、人は住んでいないはずだ。(照子が本当に人間であるかどうかは、おいておくとして)

 記憶を読んだ限りではかなり早い段階で遥は木戸研究所から他者の存在を排除している。雨森研究所を手に入れたのも、結局は照子と二人っきりになるためなんだと思う。

 照子をほかの場所に移動させるリスクよりも、雨森研究所そのものを手に入れてしまったほうが安全だと遥は判断したんだ。

 今だって照子のために地上に巨大なガラスのドームを昼夜を問わず建造しているくらいなのだ。きっと遥が照子の存在を隠蔽しているのだと思う。木戸照子という存在は木戸遥によって隠蔽されているんだ。世界から照子を隠している。照子が世界に見つかることを拒んでいるのだと思う。

 遥ならそれくらいのことは平然とやるだろう。もしかしたらドームの建設には照子の保護だけではなく照子の隠蔽という目的も初めから含まれていたのかもしれない。とにかく木戸遥は木戸照子の存在を隠蔽し、照子のことを自分だけで所有しようとしている。だからこそ『木戸』照子なのだ。そうして雨森照子は木戸照子になったんだ。

 人が人を、所有できるわけなんかないのに。遥ならそんなこと理解しているはずなのに。それとも遥は私と同じで照子をやっぱり人としてではなくて、人とは違うなにか、として見ているのだろうか? わからない。わからないけど、遥はきっと他人の目も手も心も届かないところに、永遠に照子を閉じ込めるつもりなんだ。そうやって照子を所有するつもりなんだ。夏の呼吸が乱れる。だんだん夏の頭は痛くなる。……苦しい。頭が割れるくらいに、苦しい。自我が保てない。私が私ではなくなってしまうようだ。

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