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「はい。夏」遥はクローゼットの中から二着目のコートを取り出した。それは水色のコートだ。

「なに?」

「貸してあげる。それじゃ寒いでしょ?」まるで夏の心を見透かしていたかのように遥は言う。やっぱり遥は優しいなと夏は思う。

「うん。ありがとう」夏はコートを受けとると青色ジャージを脱いで、紺色の制服の上からコートを着る。水色のコートはとても暖かい。

「地上に出るの、久しぶりなんだ。ちょっとわくわくするよね」

 遥は意外とはしゃいでいる。こういうときの遥を見ていると、まるで学園時代に戻ったような気持ちになる。

「雪も降ってるみたい」手袋をしながらも、器用に白いノートパソコンをいじりながら遥が言う。

 子供のように笑う遥は無邪気でとても可愛い。

 雪よりも真っ白で純粋。雪のように冷たくてすぐに溶けてなくなってしまう。そんなイメージを夏は遥の笑顔から連想する。夏は遥の横顔をじっと見つめる。少しでも目を離したら遥が、すぐに消えてしまうような気がしたからだ。……あのときみたいに遥が、どこかにいなくなってしまうかもしれないと思ったからだ。

 夏は思わず遥の手をぎゅっと握った。すると遥は一瞬だけ動きを止めて、夏を見る。二人は数秒間見つめ合う。それから遥は小さく含み笑いをする。その笑みに思わず夏は見とれてしまう。夏の頬が赤く染まる。

 少し遅れて夏も遥に微笑みを返す。遥は夏の手をぎゅっと握り返してくれる。それが夏にはすごく嬉しかった。

 遥は目で夏に合図をすると繋いだ手を一度、ゆっくりと離した。それからクローゼットの奥にたくさんの遥の洋服たちに隠されるようにして置いてあった小さな黒いリュックサックを取り出すと、そこに白いノートパソコンを入れて、それを背負った。それから二人は再びぎゅっとお互いの手を握る。その間、夏の顔はずっと真っ赤なままだった。

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