454 夢の中 銀色のカプセル
夢の中 銀色のカプセル
心は丸い形をしている。(たぶん)
存在とは波である。(きっと)
私は私の心が作り出している幻である。(本当に?)
そこには銀色のカプセルがあった。夏はその中に入り込もうと思ったのだ。ここは寒い。だから、少しでも寒さを防げないかな? というただそれだけの子供っぽい単純な動機でそうしようと思ったのだ。
「冷たい。優しくない」
カプセルはとても冷えていた。さっき確認したときよりも随分と冷たく感じた。人生は厳しいなと夏は思った。
カプセルの中に入ると夏は丸まって、瞳を閉じて、そのままじっとして、眠るようにして、動かなくなった。私はここでさなぎになるのだ、と夏は思った。そう思うとなんとなくだけど笑いたくなった。いや、実際に夏の顔はにっこりと笑っていた。
「おやすみなさい」夏は言う。
そしてそのまま、本当に夏は銀色のカプセルの中で眠りについた。寒かったせいか本当にすぐに眠ることができた。それはとても深く、とても安らかな眠りだった。
ドアをくぐって部屋の中に入った遥が見たものは銀色のカプセルの中でぐっすりと眠り続けている夏の姿だった。遥は眠っている夏の姿を見て、一瞬、すごくびっくりしたけど、よく観察してみると、夏はきちんと呼吸をしていて、小さな寝息も立ててきた。
夏、……よかった。遥はほっとして胸を撫で下ろした。
それから一度深呼吸をして気持ちを切り替える。いつもの木戸遥に戻った遥は、寝ている夏の体を揺すって、彼女を夢の世界から現実の世界へと引き戻す作業をした。
夏はすぐに反応して、うっすらとまだ眠たそうな眼を開けた。
「……遥? おはよう」夏は言う。
「お帰りなさい、夏」呆れたような、ほっとしたような表情をしながら遥が言った。
夏はカプセルの中で体を起こして大きなあくびをした。それからそっと遥を見つめる。
「……私、いけないことしたのに、ルール違反したのに、ちゃんとここまで迎えにきてくれたんだ。遥は優しいね」と夏が言う。
「夏は別になんのルール違反もしていないし、いけないこともしてないよ」
遥は夏に手を差し伸べる。
その手をとって、夏はカプセルの中から抜け出して床の上に移動した。
「なんでも拾っちゃうのは、遥の悪い癖だよね」夏は言う。
「なんのこと?」
「こっちの話」それは夢の中の出来事の話。
二人は並んでゆっくりと歩き始めた。どうして並んで歩いているかというと、それは二人がしっかりとお互いの手を握り合っているからだった。
それからしばらくして、「はっくしょん!」と、夏がくしゃみをした。
「どうしたの? くしゃみなんて珍しい」と遥が言う。
「さっきの場所、すごく寒かった」鼻をすすりながら、夏が言った。
「当たり前でしょ? 本来、立ち入り禁止区画なんだからさ。散歩の途中にそんな格好(遥とおそろいの真っ白なパジャマ)で、しかも私の許可もなしで、本来は入っちゃいけない場所なんだよ。あそこは」と、笑いながら遥が言う。
「ごめんなさい」と夏は素直にあやまった。そうあやまってからこんなに素直にあやまれる自分に、夏は少しだけ驚いた。
「うん。いいよ」遥が言う。
夏は遥が笑ってくれて、嬉しかった。内心、もしかして遥がとっても怒っているのではないかと思ってどきどきしていたのだ。
「ねえ、遥」
「なに?」
二人は歩き、それから少しして夏が遥に問いかける。
「タイムマシンってなんだと思う?」
「空想の概念」遥は即答する。




