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 しばらくしてドアが開く音がした。

 顔を向けるとそこには遥がいた。部屋の中に入ってきた遥の姿を見て、夏は泣くのをやめて、その代わりに再び元のように椅子の上で丸くなった。顔を隠すように両足の間に顔を埋めた。

 泣いているところを遥に見られてしまった。

 ……恥ずかしい。夏は思った。

 夏はその恥ずかしさをごまかすためにすぐに頭の中で言い訳を始める。

 おかしいな。私、なんで泣いているんだろう? でもさ、遥がいけないんだよ。遥が私を一人にするからいけないんだよ。そうだよ。きっと遥のせいだ。全部、全部遥が悪いんだよ。

 遥はゆっくりと背後から夏に近づいて、まるで小さな子供に触れるような、そんな優しい手つきで夏の頭に触れると、そのままそっと夏の少し癖のある黒髪をその形に沿うようにして何度も、何度も撫でてくれた。

「夏はよく泣くよね」

 夏は顔を上げることができない。遥の顔が見たい。でも同時に同じくらい遥の顔が見たくない。

「どこいってたの?」涙声で夏が言う。

「照子をベットに移動させてたの。あの子は一人じゃ眠れないから」遥は言う。でも、そんなこと言ったら私だって一人じゃ寝られない、と夏は思う。

「私を一人にして、照子と一緒にいたの?」夏が言う。

「そうだよ」

「待ってるって言ったのにずるい」

「ずるくないよ」遥が言う。

 遥は夏の背中を抱きしめる。遥と会話をして、少し時間がたって、だんだんと夏の気持ちが落ち着いて、思考が正常な状態へと戻っていく。すると夏は冷静になった分、さっきまでよりも余計に恥ずかしくなって、夏の頭の中はその恥ずかしさと後悔の気持ちでいっぱいになった。夏の顔はその全部が耳まで真っ赤に染まっている。

 遥は夏から体を離した。それはとても絶妙なタイミングだった。まるで夏の心が回復したことを遥は知っているみたいだった。  

「ちょっとだけ地上を散歩しようか?」

 遥が素敵な提案をしてくる。夏のことを心配してくれたのだろうか? だとしたら、とても嬉しい。恥ずかしい思いをしたことも報われる。これでこそ泣いた甲斐があるというものだ。

 夏はそっと顔を上げる。夏はようやく遥の顔を見ることができた。

 遥は夏を静かに見つめている。

 優しい表情で微笑んでいる。

「いく」真っ赤な目をこすりながら、夏は言う。

「よし。じゃあ急いで準備をしよう」

 遥はベットから立ち上がって、すぐに外出の準備を始めた。夏も椅子から立ち上がって外出の準備を始める。すると、夏はなんだか元気になった。

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