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「いおり。大好き」
とにっこりと笑ってゆずきは言った。
結局、ゆずきはいおりのことを好きだと言った。
勘違いではないと言う。
いおりは困ってしまった。ゆずきのことは好きだけど、友達として好きなのだ。恋人としてではない。
「恋は人を強くする。でも同時に恋は自分を内側から傷つける。恋は甘いだけではない。ときには血を流すことだってある」
「それでも人は恋をする。恋はそれほどに強い力を持っている」
いおりとゆずきはそっと手をにぎる。
それは仲直りのふれあいだった。
「折れた木の枝の台本。いい台本だったね。どこから着想をもらったの?」いおりはいう。
その言葉を聞いてゆずきはほほえむ。
やっぱりいおりは覚えてないのだ。私たちのはじめての出会いのことを。いおりが私の上におこっちて来たときのことを。(まあ、どうせいおりのことだから忘れていると思っていたから、別にいいんだけど)
「教えてあげない」
ゆずきはいう。
「あ、でも私とお付き合いしてくれたら教えてあげる!」と明るい顔をしてゆずきはいう。
「なら、いいや」と笑いながらいおりはいう。
旅人がいるの。
旅人が旅に出ようと思った理由はなんだろう?
恋をしたから。
ゆずきはすぐにそういった。
人は愛を見失うと迷子になる。
帰ってこれなくなる。
もう一度、愛を見つけるまで。
卒業に対して思い残したこと?
そんなの……、あるに決まってるじゃん。
私たちの未来には不安しかない。
でもそれでもいいのかもしれない。
強くなって。
戦って。
乗り越える。
二人で一緒に、手を取り合って。
そんな風にして私たちはきっと生きていくのだ。
これからずっと。
……ずっと一緒に。
「ゆずき。あなたの愛は本物だよね?」
「もちろん。本物だよ」
そのゆずきの言葉でいおりは決心をする。(なにを決心したのかは秘密だ)
「今日だけ」
そういっていおりはゆずきにキスをした。
「言っておくけどさ、私のキスは恋人じゃなくて友達のキスだからね。ゆずき」
顔を真っ赤にしていおりは言う。
「友達のキスは唇にはしないよ。いおり」
と嬉しそうな顔でゆずきは(いおりに抱きつきながら)言った。
はい。これ、あげる。
折れた木の枝 終わり




