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「さなぎちゃん。私たちの最初の目的を忘れないで。私たちはピアノの曲を聴くために、お母さんの部屋にやってきたわけじゃないでしょ?」
(上半分の顔をクッションから出して)のはらは言う。
「え、あ、はい。そうでした」とさなぎが言う。
「私の部屋にやってきた目的? 私のピアノの曲を聴きにきてくれたんじゃないの?」のぞみさんが言う。(ちょっと残念そうな顔をして)
「それもあるけど、別の目的もあるの」とのはらがいう。
「別の目的?」
きょろきょろと自分の部屋の中を見渡しながらのぞみさんはいう。
「私の部屋に宝物なんてどこにもないよ」
「宝物じゃないよ。お話を聞きにきたの。昔お母さんが私に話してくれた『私たちが幸せになる方法』についてのお話だよ」とのはらは言った。
『そのお話。私もすごく興味があります』
とのぞみさんがいるせいか、さっきからずっとさなぎの服のポケットの中に隠れている妖精さんがたまらずと言った感じで、とても小さな声でさなぎに言った。
(妖精さんは今でものぞみさんの前ではその姿を見せなかった。どうやら妖精さんはのぞみさんには『もしかしたら自分の姿が見えて、声が聞こえるのかもしれない』、とそう考えているようだった。もしそうならそれでさなぎはのぞみさんの妖精さんのことをきちんと紹介できると喜んだのだけど、妖精さんが『私のことを大人の人に見せるのは反対です。私が友達になれるのは、さなぎちゃんのような小さな子供たちだけなんです。だから、もしのぞみさんに私の姿が見えるのなら、私はのぞみさんから隠れて、絶対に見つからないようにしなければなりません』とさなぎに言った)




