表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

308/442

345 12月26日 朝 あなたのことが大好きです。

 12月26日 朝 あなたのことが大好きです。


 真っ青な気持ちの良い冬の空が上空に広がっている。その下にあるのは永遠とも思える緑色の大地。そこにある小さな丘の上に二人の子供が立っている。(その小さな丘は夏が遥を探し始めて、最初にたどり着いた目的の場所だった。そこは、遥の夢の場所でもあり、これから照子と澪が小さな家を立てる予定の場所でもある)

 一人は雨森照子。もう一人は宿木澪だ。 

 照子の顔には包帯が無造作な巻きかたでぐるぐる巻きにされている。左目は完全に隠されていて、頭の側道部にあたる部分の包帯にはうっすらと赤い血がにじんでいた。(包帯の巻きかたがシェルター室にいたときよりも雑になっている。それは包帯を取り替えるとき、今回は澪ではなく、照子が自分自身で包帯を巻きたいといい、実際に自分で包帯を巻いたからだ)

 照子はその手に一台のノートパソコンを大切そうに両手で抱えるようにして持っている。それは遥が愛用していた真っ白なノートパソコンだった。照子の隣では、澪はその手に地下のリュックサックの中から持ち出してきた夏のカセットテープレコーダーを持っている。カセットテープレコーダーのコードはぐるぐる巻きにされ、その先端にある予備のイヤフォンは(夏愛用のヘッドフォンは箱の中にしまわれている)耳に装着されていない。

 二人は空を見上げている。二人の青色と緑色の真新しくて美しい瞳が、太陽の光を受けてきらきらと、まるで磨き続けた宝石のように輝いていた。

 気持ちのいい風が世界の上を吹いている。その風が丘の上の(そして世界のあらゆるすべての)緑をゆらゆらと小さく揺らしている。

(……人工の風と、……偽物の世界。その風景を見て、照子はそんなことを思考する)

 照子はその場にちょこんと座り込むと手に持っていたノートパソコンを膝の上に乗せて、ゆっくりとその蓋を開いた。ノートパソコンの画面の中にはもう白いクジラは泳いでいない。白いクジラは悪い魔女にかけられた魔法が解けて、今は人間の女の子の姿に戻って、照子の隣に立っている。

 澪は照子の隣に座ると、手に持っていた夏のカセットテープレコーダーの接続コードを遥のノートパソコンに繋いで、それから小さなイヤフォンを照子の耳と自分の耳に一つずつ装着してから、静かにカセットテープレコーダーのスイッチをオンにした。レコーダーにはきちんとカセットテープが入れられている。(夏が聞いていた途中のままで、カセットテープは止まっている)それはゆっくりと回転を始め、テープを巻き取り、小さな音で、世界の中に音楽が流れ始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ