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冷たく透明な冬の風が吹いて、夏は全身に肌寒さを感じた。
……心細い。でも、誰にも頼ることはできない。この地区は極秘区画となっているはずだ。ありとあらゆる通信が遮断されている。この場所ではどんなことが起ころうと、頼れるのは自分の肉体のみだった。
それからしばらくの間、丘の上に寝っ転がってじっとしていたら、次第に気持ちに力が蘇ってきた。落ち込んでる場合じゃない。とりあえず周辺を探索してみることにしよう。夏は勢いよく起き上がるとすぐに行動を開始する。
とりあえず丘の周りをぐるぐると歩きまわって探してみたがなにも見つからない。少し探索範囲を広げてみることにする。すると夏は近くの森の中に道のようなものがあることに気づいた。
……あやしい。夏は道にそって森の中に入っていく。
道の脇にある木々はとても瑞々しい。森ってこんなに奇麗なところだっけ?
夏は周囲の風景に違和感を感じる。
自然の中にいる気がしない。人工物の中、作り物の世界に迷い込んだような気分になる。間違いなく本物の草木に見えるのだけど、どこか本物っぽくない。奇麗すぎる。命ってこんなに奇麗で、清潔な存在だっただろうか? 生命とはもっと泥臭くて汚いもの。有機体とはそういったものではないのか? そんなことを疑問に思いながらも夏はどんどんと森の奥に進んでいく。