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 ……なんて無力なんだろう。夢の中でも私は無力なんだ。私は小さな女の子一人救うこともできない。手を差し伸べることも、触れてあげることもできない。私は崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込む。涙でなにも見えない。私はどんどん小さくなる。どんどん小さくなって、目にも見えなくなる。存在が失われる。消えていく。拡散して、混ざり合って、記憶の中から消えていく。誰も私のことを思い出さない。みんな私のことを忘れてしまう。空虚な感情だけが私を支配する。私は透明になり、空気よりも軽くなり、あの子の内側はからっぽになった。私はこのまま消えてしまっても構わない。だからお願い。あの子を助けてください。あの子を救ってあげてください。私の祈りはあの子の存在と同じように消えてしまう。私のこぼした涙も消えてしまう。私がここに居たことを知っている人は誰もいない。私の存在は消え去り、あとにはなにも残らない。

 ……私は、消えていく意識の中でも、あなたのキスを感じ取ることができた。それがとても嬉しかった。ありがとう。私は自分の死を受け入れていた。今まで生きてこれたことが奇跡だったのだ。最後のときを、あなたと過ごせてよかった。あなたとキスしながら、死んでいけるなんて素敵だ。私の心は透明になる。私の体も透明になる。私の瞳から涙が流れた。その涙は、とても熱く、ひんやりとした私の頬を驚かせた。私は自分の中に残っていた最後の熱が、涙と一緒に体の外に逃げていくことを許した。それは私にとって、私の最後の力を振り絞った、私自身のための、……人間の証明だった。

 私は人間だ。私は人間なんだ。私の手から力が抜けて、あなたの手から私の指が抜け落ちた。その指は大地に引っ張られるように垂れ下がり、私の心は重力から解放され、空の中に上っていく。あなたの体の下で、私は死亡した。あなたの目からたくさんの熱い涙がこぼれて、私の顔に落ちていった。

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