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349 深海 少女は、泡になって消える。

 深海


 少女は、泡になって消える。


 生命が死ぬ、活動を終えるということは、『疲れて眠る』という認識で、いいんですよね?


 僕はいったい誰だろう? 暗闇の中で澪は考えていた。僕は君と、この小さな世界の中で生きている。外の世界のこと、自分が世界の中心で生きていたときのことを澪は覚えていない。あるのは(断片的な)知識だけ。記憶はない。僕にとって世界とは君のことだ。君が僕に命を与えてくれた。僕が君の命を救った。どんなに辛い運命でも、僕はこの世界を受け入れる。最後の瞬間まで、きちんと前を見て、生き抜いていく。

 僕は『君の死を救うために生まれた存在』だ。君はベットの上に横たわっている。僕の目の前で君の命が消えようとしている。君の呼吸が弱くなる。君の存在がこの世界から失われてしまう。僕は君の手を握る。普段から冷たい君の手は、その弾力を失い、今にも溶けてしまいそうなほど、壊れやすい感触がした。死を感じる。これが死の感触なんだ。澪は自分の感情を必死に押さえつける。冷静にならないとだめだ。焦っても君は救えない。僕は君の頭を撫でる。とても小さい頭。とても小さい君の体。こんなに小さな命が燃え尽きようとしている。命が体からこぼれ落ちている。これから僕は君の体から離れようとしている魂を、君の体につなぎ止めなければならない。それは僕にしかできないこと。澪の体が不思議な力に包まれる。この感覚はいったいなんだろう? 頭の中が透明になっていく。僕は君の前髪をかき分ける。額に巻いた包帯がとても痛々しい。君の顔は苦痛に歪んでいる。君はたくさんの汗をかいている。そのとき、君の目がゆっくりと開いた。青色の潤んだ瞳が、僕を見つめている。口角が少しだけ上がる。君はどうやら無理矢理笑おうとしているようだ。僕を心配させないために? もしかしたら、最後の瞬間を笑顔で迎えるためかもしれない。

 澪は照子の顔に自分の顔を近づけると、お互いのおでこをそっと合わせた。とても冷たい照子のおでこに、澪の熱が奪われていく。

 君の手を握る。指と指を絡ませる。お互いの体を重ねると、君の心臓の鼓動を感じた。君の意識が遠くに行ってしまう。僕は必死で、君の心を探した。どこかにあるはずだ。君の体のどこかに、君の心が隠されている。僕はそれを一刻も早く見つけ出さなければならない。君の魂と体が別れてしまう前に、君が君として存在している間に、僕は君の心を救わなければならない。僕の熱で君の心を暖めなければならないんだ。

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