表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

295/442

342

「遥に触るな!!!」夏が恫喝する。とても大きな叫び声。その声に反応して照子の体がびくんと震えて、体を小さく縮こめる。萎縮する。

 そして次の瞬間、夏は右手に持った銀色の拳銃を(左手を当てるようにして両手に持ち直して)照子に向ける。

 その動きには戸惑いがまったくない。照子の顔を夏は真っ赤になった両目で睨みつける。

 照子が(夏の怖い目を正面から見返しながら)なにかを夏にしゃべろうとする。しかし、その声は声にはならない。照子は声を出さずに、水の中で呼吸をする魚のように口をぱくぱくとさせている。(照子は自分にとって生まれて初めての新しい言葉を、自分の内側で今、この瞬間に創造しようとしているようだ。その作業に少し時間がかかっている)

 その光景を澪はただ見ていることしかできない。時間がとても遅く感じる。スローモーションの映画の演出のように、あらゆるものがとてもゆっくりと動いている。

 澪は夏に声をかけようとする。

 ……だめだよ。夏。撃っちゃだめだ。なんで夏が照子を撃たなくちゃいけなんだよ。照子はなんにも悪いことはしていない。照子はただ生きようとしているだけなんだよ。まだ『子供』なんだ。ようやく歩けるようになったばかりの『子供』なんだよ。それなのに、(そんな照子に向かって)どうしてそんなに怖い顔をしているのさ? 優しい夏はどこにいってしまったんだよ? そんな顔、夏には全然似合わないよ。ずっと楽しそうに笑っていたじゃないか? 夏はいつも明るくて、わがままで、とても優しくて。……それが夏だよ。僕の知っている夏。

 ……夏。やめてよ。だめだよ。

 ……夏。

 撃ったらもう誰も引き返せなくなる。みんな、みんな死んじゃうよ。お願い。夏。撃たないで。照子のこと、……許してあげて。

「……なつ」

 照子の言葉と同時に銃声が鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ