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夏は照子の体を見る。(観察する)
……真っ赤な顔。……真っ赤な手。……真っ赤な体。……真っ赤な髪。
片っぽだけ開いている瞳だけが青色。青色は夏の一番好きな色だった。……その色に、夏はずっと憧れていた。
夏は視線を照子から床の上に転がっている遥の体に移動させる。
遥はまったく動かない。顔はそっぽを向いている。遥は夏を見ていない。そこには黒くて長くて美しい、見慣れた遥の髪の毛だけが存在している。その髪の毛は今は床の上におうぎ形に広がっている。
夏はその右手に銀色の拳銃を持っている。その銃を持つ右手はかすかにだけど震えている。
床の上に転がっている動かない遥の体を見つけて、(その体は照子ほどではないにせよ、体のほとんどの部分が赤い色に染まっている)その銃を持つ夏の右手の人差し指が、ぴくんと、確かに少しだけ、……反応した。
澪はそんな二人の様子をじっと観察し続けている。(観察することが澪の役目だ)
夏はなにも行動を起こさない。(どうしてだろう?)
夏はシェルター室の中にいる照子と遥の姿を凝視している。照子は遥のすぐそばに立っている。真っ赤な姿で遥に触れようとしている。遥はまったく動かない。ずっと床の上に寝そべっている。
それから少しの沈黙を挟んで、(どうやら照子は一刻も早く遥を医務室に運びたいと思っているようで)照子は夏の存在を無視して、遥の右手をぎゅっと両手で掴んで、遥の体を引きずるようにして、遥の移動を再開させた。
……ぺたぺた、と言う照子の足音が、……ずるずる、という遥を引きずる音とともに無音の部屋の中に(とても大きく)響き渡った。
その瞬間、(……その行動を見て、その音を聞いて)夏の頭のヒューズが飛んだ。それがばちっという衝撃音を立てて弾け飛ぶ音が確かに夏の耳には聞こえた。夏は人生で初めて本気できれた。自分でも信じられないくらいに、……一瞬で(まるで宇宙創造のビックバンみたいな速度で)頭が沸騰した。




