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「照子。画面から少し離れて。それから、もっときちんと言葉を発音して」と澪は言った。すると照子は少しだけ画面から顔を離して、とてもゆっくりと、まるで機械で再生したような正確な発音で言葉を言った。
「たすけたい」……たすけたい? 澪はその言葉を頭の中で繰り返した。
「助けたい? なにを?」
「はるか」そう言って照子は床に転がっている遥の体を指差した。澪も遥のことを見た。
「遥がどうかしたの? さっきからずっと寝ているみたいだけど……」
「たすけたい。わたし、どうしたらいい?」と照子は再び画面の中にいる澪に言った。澪は視線を照子に戻した。
その瞬間、照子の足下に水滴が落ちる。……それは、照子の流した涙だった。澪はそれが落ちて、床の上で王冠のようにして弾けるところを(まるでスローモーションのようにして)はっきりと見た。(ぴちゃん、という音も聞こえた)それを見て(聞いて)澪はようやく照子が泣いていることに気がついた。
片っぽの目は血で赤く染まって開いていなかったけど、もう片っぽの開いている青色の目からは確かに大粒の涙が流れていた。それは止めどなく溢れて、床の上にぽろぽろと次々に(降り出した雨のように)零れ落ちていった。




