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 冷たい風が吹いた。夏は寒さでその身をぶるっと震わせた。地下にいるというのに、この風はどこから吹いてくるのだろう? この地下空洞のどこかには、ぽっかりと大きな穴でも空いているのかもしれない。周囲の気温は明らかに低くなっている。

 地上の天気はどうだろう? もう地上では雪が降り出しているのだろうか? 夏はまた空を見上げる。

 ずっと籠の中で生きてきた。私は別にこの場所が天国だとも地獄だとも思わない。私はどこにいても一緒だ。実家に閉じ込められるのも、地下に閉じ込められるのも同じだ。なら遥と一緒のほうがいい。だから夏はこの場所にやってきた。

 自分の殻に閉じこもって、誰もいない場所で一生を終える。そんな人生に少しだけ憧れた。遥に出会わなければ、本当にそうしたかもしれない。いや、そんな度胸は私にはないな。私は遥ほど強くはない。夏は一人苦笑する。世界はいつだって平等だ。私が変わらなければ世界もまた変わらない。

 灯りの先に地下の駅が見えてきた。地上の森の中にあった駅と同じデザインをした駅だ。駅には夏の乗ってきた列車が止まったままになっている。古風な作りの二両編成の列車。夏はこの列車が結構気に入っていた。

 遥が自ら設計したと思われるこの列車はとても美しかった。乗り物を美しいと感じたことは初めての経験だ。シンプルで機能的。なのに無駄な装飾に凝っている。相反する主張が混ざってる。でもやっぱりよく見るとおもちゃみたいで遊園地のアトラクションの乗り物のように思える。そんな小さな子供みたいな可愛らしい列車を見て、夏は少しだけ笑った。

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