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 照子が遥を引っ張っている。それはいつもと逆だった。いつもは遥が照子の手を引いて歩いていた。愛おしそうな顔で照子の手を引いて研究所の中を(もちろん照子の体が外の環境に耐えられる時間と空間の範囲で)歩いていた。

 ときには照子のことを抱っこしたりおんぶしたりして、二人はゆっくりといろんなところを歩いて移動して、スケジュール通りに決まった時間には、お風呂に入れて体を洗ってあげたり、照子の部屋で薬を飲ませたりしていた。

 そんな二人の姿は、仲の良い姉妹のようにも、幼い母親と娘のようにも見えたし、照子がまるで遥のお気に入りのお人形であり、遥がそのお人形を使って、まるで幼子のおままごとのように、ずっと一人遊びをしているようにも見えた。……それが今はまったく逆だった。

 遥が(照子の)人形になり、照子が人間のように動いていた。それはとても不思議な光景だった。照子はその場でずっと握り締めていた遥の右手を離すと、遥の右手は床の上に不自然な形に折り曲がって、垂直に落っこちた。(あるいは、自由落下した)

 それから照子は近くにあった背もたれのある椅子によじ登って(ぺたぺたと音がする。照子の足音だ)澪の映っている大きめのモニターの画面にぺったりと自分の顔を密着させた。透明な画面に真っ赤な液体が、……ぐちゃ、という音を立てて付着した。

 澪はじっと照子の顔を見続けていた。

 澪の視界は真っ赤な照子の顔でいっぱいになった。画面にぎゅうぎゅうと押し付けられた照子の口が、……ぱく、ぱくと陸に上がった魚のように小さく動いている。それは上下に開いたり、閉じたりしている。(画面の向こう側に、赤い小さな泡が生まれる)どうやら照子はなにかを澪に(言葉を発して)伝えたいようだ。 

「どうしたの照子?」その思いを感じ取った澪が照子に聞いた。

 照子は小さな声で澪になにかを言った。しかし、その声はあまりにも小さすぎて画面の向こう側にいる澪にまで届かなかった。

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