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人工進化の研究も人工知能の研究と同じで、遥の目指す(人工進化分野の目的でもある)照子の研究、つまり『超人の研究』を完全な形で発表している研究者は一人もいないし、完璧な条件で実験を行った人物もいない。(こちらの実験も擬似的な不老不死と同じで、倫理的なハードルがとても高い)おそらくは遥がその最初の一人となるだろう。(その予想の的中率はだいたい九十五%くらいだ)
……ただし、これは表の世界の話であって、裏の世界では本当のところ、どこまで研究が進んでいるのかはわからない。それを澪には知る術がなかった。
その法の光が照らし出さない『闇の世界』の中には遥以上の天才が、(もしかしたら、……何人も、何十人も)潜んでいるのかもしれないけれど、その姿を捉えることは誰にも(澪にも)できないことだった。それはつまり存在していないことと同じことだ。澪はそう判断をした。
澪はそこまで考えて、少し休息することにした。
(澪は自分の思考から遥のことを連想して、自分のマスターである遥がシェルター室に避難してくるのを人工知能らしく待つことにしたのだ)
……それから少しして、不意に画面の中で点滅していた警告の文字が消えた。
研究所はセキュリティーの第二段階に入った。外の世界に対するあらゆる門を完全に(ライフラインも含めたすべて)閉ざして、ドームは一つの固い完璧な球体になった。それと同時に内側のドアのロックはあらゆる場所が解除された。それらの動作は自動で行われ、……すべて澪の管轄外で行われた。
澪はまだ研究所のコントロールを取り戻してはいなかった。(だから澪にできることはなにもなかった。澪は遥を待っている間、頭の中で、ぼんやりと、なんとなくの思考を続けることにした)




