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歩いている途中で、駅までの道のりの一部が大きな橋になっていることに夏は気がついた。さっきこの道を通ったときには全然気がつかなかった。きっと緊張していたんだ。遥のことで私の頭の中はいっぱいになっていたんだな。夏は反省する。
そっと足を滑らせないように気をつけながら街灯の横から橋の下を覗いてみると、きらきらと輝く街灯の白い光が暗闇の中でゆらゆらと揺れているのが見えた。あれは水だ。あそこが水面になっているんだ。そうか。ここはただの空洞ではなくて、地底湖になっているんだ。地底湖に浮かんでいる大きな島のようなところに、あの研究所を建てたのか。その事実に夏は驚く。
それとも人工的な貯水池なのか? もし後者だとしたらかなりの量の水をわざわざ用意したということになる。前者のほうが確率が高いと思うけど、そうなると地底湖の場所を基準にして研究所の建設地を選んだということになる。
なぜこんな場所にわざわざ研究所を建てたのだろう? そんなことを夏は疑問に思う。その疑問の答えは一つしか思いつかない。それは遥の研究には大量の水が必要になるということだ。
でももしそうだとしたら、なぜ地下なのか? それがよくわからない。どうして地上ではだめなのか? 地上にある湖や海辺の近くに研究所を建設すればよいのではないか? 地下にこだわった理由は? わからない。夏にはわからないことだらけだった。わかったことは夏の歩いていける場所が研究所の周りと駅までの道と大きな橋の上だけだということだった。
……このまま帰っちゃおうかな? 夏は一瞬だけ弱気になった。
水面の水をしばらく観察したあとで、夏は再び駅に向かって移動を開始した。




