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 夏は無言で、その銀色の輝きに引き寄せられるようにして、その場所まで四つん這いのまま移動する。それから夏は銃を拾う。夏は震える手で拳銃のシリンダーを外して、そこにあるはずの銀色の弾丸の数を確認する。……すると二発分、弾丸が減っていた。夏が愕然とする。すごく気持ちが悪くなって危うく吐きそうになった。夏は口元を手で押さえて考える。

 ……誰かがこの拳銃を撃った。……誰が拳銃を撃ったんだろう? その答えは考えるまでもない。決まっている。この研究所の中に人間は二人しかいない。そして拳銃は『人間が生物を殺すために生み出した道具』だった。(銃は人間がもっとも使いやすい形にデザインされている)夏は拳銃を撃ってはいない。だから夏ではない。だから消去法で答えは遥になる。遥が拳銃を撃ったんだ。木戸遥が誰かに向かって拳銃を二発、発砲したのだ。夏はそこで思考を遮断した。これ以上余計なことを考えてはいけない。だって銀色の拳銃は、『こうして夏の手元に帰ってきた』のだから。余計なことを考えると、夏はもう、……なにをするかわからない。だからなにも考えないほうがいい。なにも感じないほうがいい。

 ……私は死んだのだ。……今、この瞬間に、瀬戸夏は、死んだのだ。

 夏は拳銃を右手に持つと、ふらふらと壁に手をつきながら立ち上がる。夏の顔はまるで幽霊のように生気がない。目も虚ろで、なにも見ていないように見える。事実、もう夏の目には周りの風景は見えていなかったし、夏の耳にはどんなに激しい音も、届いてはいなかった。夏はこの瞬間、『無』になっていた。あらゆるものが夏の周囲にある摩擦によって、彼女を構成していた魂の質量が磨り減ってしまって、夏は無くなってしまったのだ。

 彼女は失われてしまった。彼女はいなくなってしまった。……彼女は完全に壊れてしまった。

 夏はふらふらとした足取りのまま、ゆっくりと通路まで引き返して、それから夏は出口とは反対側の、

 あの嫌な予感のする、

 赤い不器用な絵の具の線に導かれるようにして、

 隠されていた秘密の通路の中に向かって、ゆっくりと歩いて行って、……そして、やがて、彼女はその闇の中に消えていった。

(バッドエンド……?)

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