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冬の寒さを感じる。そっか、今は冬なんだっけ。研究所の中は温度が調整されていたのですっかり忘れていた。それでも地下は地上ほどは寒くはない。夏は研究所にたどり着くまでの旅の辛さを思い出す。
それにしても、隠れるにしたってこんな世界の果てに隠れる必要はないと思う。それも研究所のある場所は地下だ。遥はいったいなにから隠れているんだろう? ……私からだったら嫌だな。
夏は空を見上げる。空が見たかったのだけど、もちろん空は見えない。
上は真っ暗闇。月も星も輝いていない。研究所の周辺も真っ暗だ。駅の方向を見ても真っ暗闇でしかない。地下の駅から道案内をしてくれた街灯は誰か人が通るとその存在を感知して照明がつくシステムのようで、今のところ明るいのは研究所の入り口前にいる夏の周囲だけだった。
きっと研究所の外部ではこうしてエネルギーを節約しているのだろう。列車や研究所などの地下の施設を含めると、太陽光エネルギーだけではそのすべてをまかなえないはずだ。もしかしたら、どこかに別の原理を利用した発電施設があるのかもしれない。
研究所の地下はとても大きな空洞になっているようで、闇は深く、全体の大きさを把握することはできない。ずっと眺めていると永遠に世界の果てまで暗闇が続いているような錯覚に陥ってしまう。
少しの間、そんな深い闇を見つめてから、夏は駅に向かって歩き始めた。




