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 夏は限界まで後ろに下がってドアがある壁とは反対側の壁に背をつけると、そこからもう一度、躊躇なく全速力で開かずのドアに向かって加速していく。(夏の走りには、さっきまでと同様にまったく迷いがない。まるでそこにドアなんて初めからないという感じで、夏は走っている。加速していく)

 そして思いっきりドアに体をぶち当てる。衝撃で弾き返された夏の体は空中を浮遊する。そのまま夏の体は床の上に転がって、部屋の中央付近にある丸いテーブルにぶつかった。するとテーブルの上にあった遥のカップが、そこから床に落ちてばらばらにくだけてしまった。

 夏は砕けたカップを見て、なぜそこにカップがあるの? と不思議に思う。(夏はテーブルの上に遥のコーヒーカップがあることを認識していた。だけど、それが床の上に落ちてばらばらに砕けた瞬間に、どうしてカップがテーブルの上にあるのか、なぜカップがそこから落っこちて、割れなくてはいけないのか、それを理解することができなくなった)

 床の上に冷たくなったコーヒーが溢れて広がった。夏は床に寝っ転がりながら、その割れたカップと床の上に溢れた冷たくなったコーヒーを、赤く染まる世界の中でじっと、じっと見つめていた。(床の上に溢れたコーヒーは、まるで遥の血のように見えた)夏の鼻にコーヒーの香りが一瞬だけ、漂った。(それは、すぐに消えてしまった)

 そのばらばらになってしまったカップを見て、なんだが夏の全身からすっと力が抜けてしまった。虚無感が心の中を支配して、夏は床に倒れたまま起きることができなくなってしまった。気がつくと夏はもう指一本すら自分の意思ではうまく動かすことができなくなっていた。まるで電池が切れてしまったロボットのようだと思った。

 私はもしかして遥の作り出した人間そっくりのアンドロイドなのではないかと夏は思った。軋むような骨の痛みも、肉体の悲鳴も、私が流した赤い血も、すべてが遥の作り出した偽物なのかもしれないと思った。……本当にそうだったら嬉しいのにな。夏は遥に自分の背中にある電源のスイッチをオフにして欲しいと思った。

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