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「澪、お願い! 出てきて!! そこにいるんでしょ!」
パソコンの画面はなにも変わらない。警告の文字が点滅しているだけだ。夏はキーボードをめちゃくちゃに叩いてみる。でもなんの変化も起こらない。
澪の声は聞こえない。ずっと夏のことを見張っていたあの白いクジラはどこにも見えない。
……澪、どうしちゃったの? ……遥。遥はどこ? ねえ? どこ? どこにいるの? 二人とも、どこにいってしまったの? 私を一人ぼっちにして、どうして二人ともいなくなっちゃったの?
夏はなんだか泣きそうになる。不安が夏の心を支配していく。どくんどくんと心臓の鼓動が聞こえる。それはとても速いペースで鳴っている。次第に夏の感情が高ぶっていく。気持ちを抑えることが難しくなる。夏はなんだか怒りのような感情さえ、その小さな心の中に覚えていく。
「澪! お願い。私、遥に会いたいの!!」
警報音は鳴り止まない。(白いクジラも出てこない)
そこで夏は澪に見切りをつけた。……もういい。もういいよ! 出てきてくれないなら、澪は勝手にすればいい。私も勝手にする。私も勝手にこの部屋を出て行くから! この自分勝手な判断について、その身勝手な決断について、私は誰にも文句は言わせない。
私は私だ。私は瀬戸夏だ。私は遥に会いに来たんだ。瀬戸夏は木戸遥に会いたいんだ。私は遥と一緒にいたいんだ。ただ、それだけなんだよ。(それがどうしていけないの!)




