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 ……そこには、部屋の隅っこにじっとうずくまった姿勢のまま、顔だけを少し上げて、遥のことをじっと見つめている木戸照子の姿があった。


 照子は椅子に座っていない。一人で立っている。自分の足でベットから起き上がり、ここまで一人で歩いてきたのだ。それは遥が望んだこと。それは遥の願ったこと。照子が自分の意思で体を動かしている。

 闇の中でぼんやりと光る照子の白い体は、輪郭がはっきりとせず、ぶよぶよとした、生まれたての、白い細胞の塊のような、人間の形になる前の、照子の姿を連想させる。実際に遥は昔の照子の姿を頭の中に思い浮かべた。 

 遥はその白いぶよぶよとした塊のような照子の姿を見て、その瞬間に、自分でも信じられないくらい大きな声を出して、絶叫した。

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ーーーーーーーーー!!」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 遥はその場に倒れこむ。体が震えて動かない。

 遥の瞳が、遥の口が、もうこれ以上は開かないというくらいに大きく見開いている。 

 ……照子がいる。照子がいつの間にか移動している。奥の自分のベットで眠っているはずの照子がなぜかここにいる。ここにいて自分のことをじっと見ている。遥はなにもしていない。照子が一人でここまで移動してきたのだ。

 照子は自分の意思で目覚め、自分の足でベットから起き上がり、自分の意思でこの部屋までやってきたのだ。照子が自分で勝手に動いている。遥を見る照子は笑っている。笑いながら遥のことをじっと見つめている。それは遥が望んだこと。それは遥が願ったこと。

 なのに、……どうして? どうして? どうして? どうして?

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