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大丈夫。眠っている照子を撃つだけなんだから。素人の私にだってできるはず。失敗はない。遥はイメージを繰り返す。無菌室に入り、白いドアを開けて、照子の隣に立って、あの子のおでこに銃を押し付ける。あとは引き金を引くだけだ。
私はその場で『二度』、この銃の引き金を引けばいいだけ。それですべてが終わる。私の生まれた役割は終わり。『私の使命は引き金を二度引くことだけ』だった。なんて簡単な人生なのだろう。なんて難しい人生なんだろう。そんな相反する思いが遥の頭の中を十字を切るように横切った。だけどその十字架はすぐに消える。(でも、残念だなんて思わない)
そうだ。そんな余計なものは全部消えてしまえばいい。あってもいいけど、なくてもいい。少なくとも拳銃を右手に持っている私にはもういらないものだ。全部、全部きえてしまえ。遥は銃を持つ右手を左手でしっかりと握る。
そして勇気を出して顔を上げて、前進する。するとそんな遥の目に『見てはいけないもの』が見えてしまう。




