266
遥は銃の動作の再度確認をする。撃ったことはないが知識はあった。知識だけなら遥は宇宙のすべてだって頭の中に叩き込むことができる。人の頭の中にはもう一つの宇宙がある。(だからこそ宇宙の姿を想像することができる。それが人の無限とも思える想像力の源になっている)それを遥は知っていた。
銃の構造も知っている。どうやって使用すれば弾丸が出るもかも知っている。空中を飛翔する(水中だって、宇宙空間の中だって構わない)銃弾の軌道だって計算できた。怖いものはなにもない。知識はいつものように、とても明るく遥の夜を照らしてくれる。
……それでも体は震えている。遥は全身に汗をかいていた。遥はあまりにも無防備だった。死に対して無防備。自分が死ぬということに対して無防備だった。……大丈夫。絶対に大丈夫。私は失敗したりしない。問題はない。遥は自分の前髪を掻き上げる。呼吸を落ち着かせて、それから寝ている夏の顔を見る。
遥は夏の前髪をかき分けて露出した健康的なおでこに触る。
「夏。私に勇気を与えてほしい。夏を守る力を私に与えてほしい」
遥はおまじないを唱える。
手のひらを伝って、(本当はおでことおでこをくっつけたかったけど、今はこれが精一杯)とても暖かいものが夏のおでこから遥の中に入ってくる。遥の体の震えが収まっていく。汗が引いていく。呼吸が落ち着く。代わりに熱が遥の体を支配する。その熱はエネルギーとなって、遥の体の内側を駆け巡る。
……暖かい。……体が動く。(意思の代わりに)熱が遥の体を動かしてくれる。これはきっと夏からの贈り物だ。遥はそう解釈をした。




