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……そのあとは、私のことは全部忘れて。
瀬戸夏と木戸遥は最初から出会ってなんかいない。二人はお互いのことをまったく知らない。顔も姿も見たことがないし、名前も知らない。手もつないだことがない。私たちは他人なの。なんの関係もない、ただの他人。この星に住んでいる隣人。たまたま近くに生まれただけの人たち。繋がらない、引き寄せ合わない人たち。
そうだよね。そういうことでいいよね。それで全部、いいんだよね、夏。私があなたのこと、全部忘れちゃっても、いいんだよね?
それでいいよね、夏。
遥の目から再び涙が流れる。とてもたくさんの涙が遥の頬を伝って白いベットの上に落ちる。初めての涙。それはベットのシーツに吸収されて、すぐに消えて見えなくなる。ぽろぽろと涙が落ちる。ずっと遥の中に溜まっていた水が、遥以外の誰かが勝手に蛇口を捻ったみたいに遥の目から溢れ出していく。(その勢いは先ほどの涙の比ではない。止まらない。遥の意思では、止めることはもうできない)




