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なんであなたはあんなに狭い鳥籠の中を自分の世界に変えてしまったの? 世界はこんなに広いのに。空はずっと夏が飛ぶことを待っていたのに。それなのにどうしてなの? 空を飛ぶことが怖かったの? 外の世界が怖かったの? 大人になりたくなかったの?
遥の問いかけに夏はなにも答えてくれない。それはいつもの二人の立場がちょうど逆になってしまったような在りかただった。遥が夏になにかを尋ねるということは本当に珍しいことだった。夏が起きていたら、きっと目を丸くして驚いただろう。(それから急に鼻を鳴らして勝ち誇った顔をするのだ)遥はそんな二人の新しい在りかた(の到来)を感じて、こういうのもありかな? とちょっとだけ思った。
私もそうだったのかな? 昔の私は本ばかり読んでた。それで十分幸せだった。世界のすべてがわかった気がした。(本当は夏の耳の形もよく知らなかったのにね)子供の空想。私が勝手に、自分の世界の中だけで、そう思い込んでいただけの話だ。おとぎ話の世界の中で私は暮らしていたんだね。ずっとそうやって、空想の世界の中で遊んでいただけなんだね。
今もそうなのかな? 遥は夏の寝顔を見る。夏は寝顔のまま、「そうだよ。だから私は遥に会うためにすごく苦労したんだよ」と遥に言っている気がした。……うん。そうだね。(夏の言う通り)ここは私の空想の世界。私の脳機能が作り出した、すべてが噓と偽物で作られた『私だけの』おとぎの国。
大きくて真っ白なたまごみたいな、大きな繭のようなドームの内側。ここが私の終着駅。本来なら夏には絶対に見られたくない場所。(だから私はあなたの元から逃げ出した)でも、それでも強引にあなたがたどり着いてくれた、暴き出してくれた、……私の幼くて醜い心のすべて。
(直視できない。でも私はそれを直視しなければいけない)




