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 夏を起こさないように静かにベットから抜け出すと、遥はそのまま歩いてキッチンに移動する。

 コーヒーを飲むためだ。朝起きてコーヒーを飲む。そんな毎日の決まっている自分の習慣を繰り返すことで、遥はいつもの自分(そういうものが存在すればだけど)を思い出そうと努力をした。

 ドアが閉まり遥がキッチンに入ると、天井にぽつんと小さな明かりが灯った。その小さな明かりは今の遥の思考を象徴しているようだった。その小さな明かりの中に遥はいる。


 ……夏。あなたが私を訪ねてきてくれたこと、本当に嬉しかった。

 遥は昨日の出来事を思い出していた 才能なんていらない。私は特別なんかじゃない。もっと普通に暮らしたい。でもどうすればいいのかわからない。普通の暮らしってなんだろう? みんなどんなことを考えながら生きているんだろう? わからない。理解できない。(考えてみた。理解しようとはしたんだよ)どうしても、できないの。

 キッチンで遥はコーヒーを淹れる。それはいつも通りの手順で、いつも通りの温度で、自分が淹れるいつも通りの見慣れた遥のコーヒーだった。香りもいい。

 でも、なぜかどうしてもそれを口にする気分になれない。遥はせっかくの淹れたてのコーヒーをカップに一杯分だけ注いでから、あとはすべて流しの中に捨ててしまった。(それは本当に珍しいことだった。普段の遥はこんなもったいないことはしない。倫理的にも、資源が限られている研究所での生活的にも、遥の思考にはブレーキがかかるはずだった)なんだかうまく立っていられない。遥は流し台にもたれかかるようにして、重いため息をついた。

 遥は瀬戸夏のことを考える。夏は遥に一番近いところにいる。それは間違いない。学園に通っていたとき、いつも隣に夏がいた。とても嬉しかった。嘘じゃない。できればずっとそうしていたいと遥は本気で思っていた。(……でも、そうすることはできないことは初めからわかっていた。瀬戸夏との出会いも含めて、その周囲にあるあらゆる事柄の現象は、すべて遥が、木戸遥自身が立てた計画の一部に過ぎないのだから)

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