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 二人の少女が空の中を落ちていく。

 どちらが上でどちらが下なのか。もう夏にはわからない。私は今どこにいるの? 空に登っているの? それとも大地に落下しているの?


「落ち着いて夏」すぐ近くから遥の声が聞こえた。夏は驚いて辺りを見渡す。でも声だけだ。姿はない。

「遥!? どこ?」涙声で夏は言う。

「大丈夫。もう大丈夫だから、私を見て」

「遥を見る?」

「私を見て、夏」

「遥?」

「私だけを見て、夏」

「遥だけを?」

「そう。私だけを見て。余計なことはもうなにも考えないで」

 余計なことはなにも考えない。私は遥だけを見ていればいい。

 そうだ。遥の言う通りだ。

 私がどこに居るのかなんて関係ない。そんなのもうどこだっていい。私の向かう先はもう決まっているんだから。

 私の居場所は、遥のとなり。

 遥の居るところが、私の居るべき場所なんだ。

 私の本当に大切な人。 

 私の名前を呼んでくれる人。 

 私が愛してる人。

 私を愛してくれる人。(これはまだ願望だけど)


 夏は一度目をつぶった。それから心を落ち着かせて(それはとても澄んでいた)それから夏はゆっくりと目を開いた。

 夏は落ち着いて青色を見渡した。するとそこに遥がいた。青色の中にはっきりと遥の姿を見つけた。なぜ今まで遥の存在に気がつくことができなかったのだと、自分でもびっくりするくらい、その距離は近かった。それはちょうど、学園の教室で隣同士の席だった夏の席と遥の席の間にあった、距離くらい。そんな見慣れた空間と時間の作り出す距離感の中で、遥はいつものように優しく夏に笑いかけてくれていた。

 夏はこの距離を(学園の教室の中の二人の席の間にあった距離のことだ)零に縮めるために一年以上の(もしかしたらそれは遥と出会ってからの私の全部の時間かもしれない)時間を消費した。自分でもばかだなと思う。(よくないことだとはわかっているけど、また思ってしまった)こんなに近くにいつも遥はいてくれたのに。本当は、二人の間にあった距離は、こんなにも近くて、手を伸ばせば、声をかければ、ただそれだけで済んだ距離だったのに。(……それなのに、どうして私たちは世界の果てまで別々に引き離されちゃったんだろうね? どうして私たちの距離はこんなにも離れていると錯覚してしまったんだろうね? どうして私たちは青色の空の中で再会することができたんだろうね? 不思議だね、遥)夏はにっこりと笑う。

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