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……そうか。私は今、ほんの少しだけど、いつもよりも空に近い場所で生きているんだ。だからこんなにも自由なんだ。ここはきっと遥の場所だ。遥はいつもこんな場所で、こんな気持ちで、毎日を過ごしているんだ。いいな。羨ましい。遥。(遥に会いたい)
青色の中に緑色の大地は見えない。大地はどこにもない。心と体がとても軽い。夏を大地に縛り付ける荷物はない。大地は消えた。背負っていた荷物も全部なくなった。夏を瀬戸夏と足らしめていた荷物はもうない。夏が足をつけて立っていた世界はなくなってしまったのだ。夏自身がかき消してしまったのだ。(まるで人類に怒った神様のように)
夏はもう永遠に落ちていくだけだ。(それは翼を持たない夏にとって、空を飛ぶという現象、もしくは幻想そのものだった)空の中を永遠と落ち続けていくだけなんだ。
このまま空の中で生きよう。もう歩くのはいやだ。走るのはいやだ。(本当に嫌いというわけじゃない。走ることは好きだし、走ることが私に似合っていることもわかっている。でも、それでも私は遥と同じ世界が見たいんだ。遥と同じ世界で生きたいんだ)
私は空が飛びたい。ずっとずっと空が飛びたかった。空に憧れていたんだ。だから私は今、決めた。この空の中で生きようって。もう絶対にあそこには戻らないって今、決めたんだ。(もしかしたらそれはずっと前に、本当にずっと昔に、もう私の中ではそうしようって、決まっていたことなのかもしれない)そのことについて誰にも文句は言わせない。私はこの青色の中で暮らすんだ。この青色の中で死ぬんだ。そう決めたんだ。
私はこの空の中で遥と一緒に空が飛びたい。この空の中で遥ともう一度、出会うんだ。




