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 私は遥と同じ世界で生きていくことができる。今の私なら足手まといにはならない。ただのお荷物にはならない。私は遥と一緒に空を飛ぶことができるんだ。

 夏の背中の小さな二枚の翼が風を捕まえる。夏の足が大地から離れる。離陸をする。自然と(まるでそれが当然であるかのように)夏は空を飛び始める。空の中を駆け抜けて、ずっと憧れていた青色の中に飛び込むようにして、駆け上がっていく。嬉しい。すごく楽しい。

 夏は全力で走る。そしてそのままゴールまでたどり着くと、そのままの勢いで倒れこむように(力尽きるように)夏は地面の上に転がった。

 ……やばい。……飛ばしすぎた。夏は体を仰向けの姿勢に固定する。夏の体はまったく動かない。夏の言うことを全然聞いてくれない。ひたすら酸素を吸い込む。吐き出す。呼吸をする。全身がしびれている。……私は生きている。生きているんだ。夏はなんだか嬉しくなる。でも、息が苦しくてうまく笑うことができない。地面に寝転んだまま、姿勢を変えて、夏は空を見上げる。そこには白い雲の流れる晴天の、とても高いところにある(夏の大好きな)冬の空がある。

 先ほどまで空を飛んでいたはずの夏は大地の上に寝転んで空を見ている。その空の中を夏はさっきまで確かに飛んでいた。本当に空を飛ぼうとして、ジャンプをして、そしたらいつの間にか大地に寝っ転がっていた。空を見上げていた。夏の体は大地から離れることはできない。(体が鉛のように重い。手足が動かない。立ち上がることがどうしてもできない)

 当然のことだ。夏は始めから空を飛んでいたわけではない。夏は初めから大地の上を走っていたのだ。(空を飛んでいたのは夏の空想である。本当の話ではない)考えてみれば当たり前のことだ。人が空を飛べるはずがない。人は大地を歩いて生きる生き物なのだ。夏は大きく呼吸をする。しばらくの間、そのままじっと空を見上げていると夏の視界の中に影ができる。青い色をした空を背景に木戸遥が夏のことを見下ろしていた。

 遥の手には真っ白なタオルとスポーツドリンクが握られていた。それを見て夏は微笑む。遥の顔は逆光でよく見えない。

「大丈夫?」遥が夏に声をかける。

 ううん。全然大丈夫じゃないよ、と夏は心の中で遥にそうつぶやいた。

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