表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

183/442

203

「夏」遥はじっと夏を見る。

「なに?」サラダを食べながら夏が言う。透明なお皿に盛り付けられた温野菜のサラダは夏の食べられる野菜ばかりでフォークが進んだ。

「人が生きるっていうことはね、人間であることを引き受けるっていうことなのよ。結論を言ってしまうと、夏の言っている技術の到達点っていうものは人の境界線のことなの。それ以上は人であることを捨てなければならなくなる領域だよね」それはつまり、それ以上行くともう元の場所には引き返せなくなる、ということか?

「その線を越えると、人は人間ではないものになってしまうってこと?」その存在に夏は心当たりがあった。

「そういうこと」遥は言う。

「夏は人じゃないものになりたい?」

「なりたくない」

「うん。それでいいの」遥は笑う。そして夏と一緒にサラダを食べる。

「科学はね、人間のために人間が作り出した技術なの。境界線を超えた先にあるものは、夏の言葉を借りれば、技術の到達点を超えた先にあるものは、科学に似ているけど、科学とはまったく別のものなの。人をやめてしまったら、……それはもはや科学ではないの。それどころかそれはもう技術ですら、なくなってしまうのよ」

「それは人の幸せのために存在していないから?」夏の言葉に遥は黙って頷いた。

「人という種族がこの世界に生まれ落ちたときにはすでに人の枠組みは完成していて、その枠組みの外側に出ることは絶対にできないってことなの? 人は人である以上、人の世界の外側に出ることはできない。その中で生きるしかない。そういうことなの?」

「だいたいあってる」夏はクリームシチューを食べ終える。だけどお皿の中には夏の食べられない野菜だけが、そのままの形を残して(夏のお腹の中には入らずに)孤独に残っていた。その小さな孤独を夏は役目を終えた銀色のスプーンでつっついている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ