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「科学はね、光なんだ」
「その話よく聞くよね。科学は暗闇を照らす唯一の光なんだっけ?」遥のことを調べる過程でそんな話をたくさん文字で見たり、言葉で聞いたりした覚えがある。科学者はよくその話をする。(文字にもする)遥も以前、そんなことを言っていたような気がする。
「うん。その通り。科学は暗闇を照らす唯一の光。真っ暗な世界の中で人が生きていくために人が苦労して長い年月をかけてようやく作り出したもの。希望。人工の光。それが科学」
遥の言おうとしていることは、夏にもなんとなくわかる気がした。でも、それは結構昔の科学感だ。(なのに現在の科学者はその昔話のような話をよくする)ユートピア思想のようなものだろうか? (私が勝手に古いと、そう思っているだけかな?)
人は暗闇の中に生きている。いくら顔に目が二つくっついていたとしても、肝心の光がなくては人は世界を見ることはできないのだ。
「明かりをたくさん作って、その光で世界を広げていく。真っ暗でなにもなかった世界を自分たちの物にしていく。所有していく」
「世界を広げていく」夏は言う。遥は頷いてチキンを一口、フォークで刺して食べる。
「それを続けていくと最終的にはどうなるの? 光で満たされた世界ができるの?」
「それはできない。人は必ず失敗する生き物だから」
「失敗する生き物?」
「ヒューマンエラーがどうしても起ってしまう。それがコストになって足を引っ張ってしまうの。だから人はいつまでたっても、人間のフレームの外側に出ることはできないの」
「人だから?」
「そう。人間だから」
夏はチョコレートケーキを食べる。遥はさっきから自分で作った手作りのケーキにまったく手を出していない。




