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遥はそんな照子を遠くから見守っている。澪はいつも遥の隣にいる。甘えん坊さんなのだ。遥は本当は照子と一緒に遊びたい。照子と一緒に草原の中を子供のように無邪気に駆け回りたいと思っている。だけど遥はそんなことはしない。遠くから照子の姿を見守っているだけだ。それで十分遥は満足できる。
天気は晴れ。空は一面の青色。それに白い雲。天上には太陽が輝き、緑色の大地の上を風が強く吹き抜ける。その風は冷たくない。気持ちの良い初夏の風だ。空の中には白く大きな雲があって、その形がどこか白いクジラのようにも見える。白いクジラは一匹ではない。それは何匹もいて、群れをなして、気持ち良さそうに青色の中を泳いでいる。
……世界が真っ赤に染まるころ、照子は遊び疲れて草原の上に倒れこむようにしてぐっすりと眠ってしまう。まだ体を動かすことに本当はあまり慣れてはいないのかもしれない。遥は照子を抱きかかえて、澪と一緒に家の中に消えていく。きっと晩御飯の支度をするつもりなんだ。遥の作る料理は美味しい。照子もきっとその匂いの中で目を覚ますに違いない。澪はキッチンに一緒に立って、遥の料理の手伝いをしているのだろう。そんなことを夏は思う。ぱたんという音を立てて小さな家のドアがしまった。
空が暗くなり、太陽が消えて、その代わりに満天の星空が世界に出現する。まるで遥たちを守る光のようだ。小さな家に明かりがともった。その明かりは空の星の光に負けないくらいに光って見える。家の明かりはとても暖かくて、遥たちが幸せに暮らしていることを証明しているように思えた。やがて、その明かりも消えて、遥たちは大きな安らぎに包まれながら、静かな眠りの中に落ちていく。二人一緒のベットの中で、(……ううん。もしかしたらそれは三人一緒なのかもしれない)頬を寄せ合って眠っている。
きっと朝には新しい太陽が遥たちを祝福してくれることだろう。遥たちを不幸にするものは、もうこの世界には存在していないのだから。自らの死によって、お互いの距離を隔てられるそのときまでは、彼女たちはずっと、ずっと一緒にいることができるのだから……。
……夏はそっと目を開ける。(いつの間にか、夏は目を閉じていた)彼女の空想はそこで終わる。




