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あのとき見かけた女の子は確かに夏を見て笑っていた。それがとても不気味だった。
「笑ったりしないの? 泣いたりとか、怒ったりとかさ」
「しない」遥は言い切る。
夏は遥の目を見つめる。
「どうして遥は学園をやめたの?」夏は遥の長いまつげを見る。とても奇麗で美しいカーブ。懐かしい曲線。
「あなたはここで、いったいなにをしているの?」素直な言葉。
遥はなにを目指しているのか? 夏は遥の真意を知りたかった。
遥はうつむく。少しして、夏を見る。
「奇跡って信じる?」そう言って天才は目を細める。
奇跡。遥らしくない言葉だ。遥は天才だった。それもとびっきりの天才。
そんな遥も奇跡を信じるのだろうか?
神様を頼ったりするのだろうか?
「あったらいいなとは思うかな」
「私は信じてる。だって照子の存在は奇跡そのものだから」
「奇跡? あの子が」
「そう。あの子が生まれたことが奇跡。あの子が今もこうして生きていることが、奇跡」
やっぱり自分はからかわれているのだろうか? さっきの出来事も遥のいたずらだったのかな?
夏はコーヒーに口をつける。遥の淹れてくれたコーヒーは暖かくて、とても美味しかった。




