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 悲しい。悲しいとはなんだろう? 深く考えていくとだんだん夏の悲しいがゲシュタルト崩壊を起こす。よく意味がわからなくなってくる。それはとても悲しい。

 澪の考える悲しいと私の考える悲しいは同じ悲しいなのだろうか? 澪は果たして、ディスプレイの中で悲しいと言って涙を流すのだろうか? 

 たぶん、違う。澪と私の悲しいはきっと違う悲しいだ。

 でもそれは澪が人工知能で私が人間だから違うという意味じゃない。同じ人間である遥と私の悲しいもきっと同じではない。みんな違う。みんなの悲しいは一人一人違うのだ。耳の形や指紋のように。結局のところ、他人の問題じゃないんだ。悲しいとは自分の問題。それはつまり個性があるということだ。世界を個別に切り取っている。自我という器の中で再構築している。

 オリジナルであるということは孤独であるということだ。

 それがつまり世界。ワールドだ。

 では私の孤独と遥の孤独はどう違うのか? 

 でも、もしそうだとしたら、私は永遠に遥の悲しみを理解することができないのだろうか? 遥を孤独という自由の檻の中から救い出すことは永遠にできないのだろうか? 私の世界は一生、遥の世界と触れ合えないまま、消滅するのか? 悲しい。それはとても悲しいことだ。

 夏は危なく泣きそうになった。でも、我慢した。それは夏が昔よりも大人になった証拠なのかもしれない。それはもしかしたら今、自分の目の前に人工知能のクジラがいたからからもしれない。たぶんだけど、人工知能は泣かない。澪は涙を流さない。そんな澪の前で、私は泣けない。

「実はね、僕には夢があるんだ。遥にも秘密にしてるんだよ。でも夏は遥と違って僕に優しいから、特別に教えちゃおうかな?」

「澪、隠し事はだめだよ。私にも教えなさい」久しぶりにぼんやりしていた遥が口を開く。急に大人ぶって澪を叱っている。私たちといい、ここにいない照子といい、この場所には子供しかいない。この小さな世界の中には、どこを探しても子供しかいないのに。大人ぶって澪に命令をしている。自分だって十四歳の子供のくせに。十四歳なんて天才だろうが、超人だろうか、凡人だろうが、とくかく子供だ。全然子供だ。

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